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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
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 有り得ない光景だった。異様な格好をした三人組が黙々と寿司を口に入れて頬張っているのだから。周囲の目が痛々しく突き刺さる。だが、この状況を作り出したのは紛れもなくクロウそのものだ。さすがの旺伝も我慢できずに、ここはとっとと勝負をして決着をつけようと画策する。


「これ以上は我慢できんぞ」


 怒りの呟きを吐く。


「何故だ。もっと食事を楽しもうじゃないか」


「そんな暇はないだろう。お互いにな」


「そう、焦んなさんな。まだ時間はある」


「お前には時間があるかもしれないが、俺はそうはいかん。この正社員奴隷地獄から抜け出して、自由の翼を手に入れるぞ」


 正社員とはとても良い響きに思えるが、この正社員という言葉を忌み嫌う物もいる、そういう人は自営業をしたりフリーターをして、自分の夢をとことん突き詰めている。結果的に大成功しようが失敗しようがその人にとっては関係ない。正社員という枠組みから外れているだけで幸せなのだから。しかし、幸せは人によって違う。実際にが正社員でいることに幸せを覚える者が大半を締めるだろう。その人にとっては旺伝の考える思想を理解できないかもしれない。


「ふん。自由か」


 三人は寿司を口にしながら会話をしている。


「そうだ。何かおかしいのか」


「自由とは何か、考えたことはあるか?」


「誰にも束縛されず、自分の直観に信じて生きる様だ」


 直観は大事だ。時に綿密な計画を立てていたとしても、失敗に終わるときがある。その時は自分の直観に信じて行動すれば大概上手くいく。人間は脳にありとあらゆる情報を詰め込んでいるため、ピンチの時の対処法を脳が教えてくれるのだ。良く、守護霊の声を聞いてピンチから脱出したと噂を聞くが、それは極限状態に陥った時の対処法を知っていて、脳から直接命令が下されたに過ぎない。これが直観の正体と旺伝は仮定している。束縛されていると決して磨くことは出来ない、真の直観の存在を旺伝は信じている。


「それが玖雅君の思い描く自由の本質か」


「束縛されないことが重要だ。俺にとっては」


「どうやら、俺の思っている自由とは違うらしい」


 違うというのだ。クロウは以前、鋭い眼光のまま此方を見据えている。


「お前の自由だと」


「赤ん坊は生まれた際、この世に生まれてきた事に絶望して泣くようだ」


「それがどうした」


「分からないのか? 今、この瞬間俺達は生という束縛を受けている」


 クロウはそう言った。生こそが束縛なのだと。


「生という束縛だと?」


「その束縛から解放されると、人は真の自由に到達するのだよ」


 すると、クロウの殺気が全身から放出されていた。ついに待ちに待った瞬間が来たかと、旺伝は立ち上がって身構える。


「だったら、俺がお前の言う自由をくれてやるさ」


「いい気迫だ。やはり玖雅君には悪魔の血が流れている様だ」


「大きなお世話だ」


「しかし待つがいい。この場で戦うのはモラル的にどうだ?」


「ナンセンスだ」


 一般人を巻き込むような戦い方は旺伝も嫌っている。故にナンセンスだと言い放つ。


「明日、決闘をしようじゃないか。場所は足若丸魔法学校A校舎屋上だ。決闘時刻は0時00分丁度」


「望むところだ」


「だが、そこの金髪眼鏡君を連れてくるなよ」


 二人の会話を見守っていたラストラッシュに唐突と会話のボールが投げ込まれた。あまりの急なパスに、ラストラッシュはボールをこぼしているように見える。


「いいえ、送り迎えはさせて頂きますよ」


「分かった。ただし闘いには参加しちゃいけないよ。これは悪魔同士の決闘なのだから純粋な人間が割り込むのはモラルに違反する」


「了解致しました」


「それじゃ、明日玖雅君には自由の翼をプレゼントしてあげよう」


 クロウはそう言うと、ちゃんと店員に寿司代を支払って店から出て行った。残された二人は顔を見合わせて、再び座る。先程の一連で、また腹が減って来たからだ。


「とんだ約束をしてしまいましたね」


「まさか決闘とはな。想像すらしてなかった」


「玖雅君の勝利を祈っていますよ」


「当たり前だ。俺は俺の思う自由を手にする」


 そう言って、好物のサーモンにかぶりつく旺伝だった。




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