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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯1 山羊頭の男
5/221

005


「俺はただの依頼人だ。名前は知らないでいいだろう」


 若干白髪の混じった髪質の依頼人は自分の名前を知らなくていいと言っていた。


「そうだな。実を言うと、俺もあんたの名前には興味は無い。興味があるのは仕事内容だけだ。簡潔に淡々と依頼理由を添えて教えてくれ」


 相変わらず、旺伝は手を動かしながら会話をしている。癖のようだ。


「早速だが、俺は君の父親を知っている」


 両手で頬杖をつきながら依頼人の男が言った。そして、それを聞いた旺伝は青いサングラス越しにだが、目を瞑って小刻みに首を縦に振った。


「そうかい。やっぱりそうか」


 両脚を組んで。


「君の父親は有名なエクソシストだ。関係者なら誰もが知っている程のな。故にその息子である君の存在も多少なりとも耳に入ってくるものだ。学園でトップの成績を叩きだした君が何故魔法学校を中退したのか。その本当の理由を」


「バカバカしい。俺は学校という檻の中に嫌気がさしただけだ」


「違う。君は魔法が使えなくなったから学校を去ったのではないか?」


  確信だ。目の前の男は確信めいた様子で此方の出方を窺がっている。それに気が付いた旺伝は不機嫌そうに溜め息を吐きながら席を立ったのだ。


「止めだ止めだ。俺は仕事が貰えるから頑張って早起きしたのに、蓋を開けたらこの有り様かよ。興ざめしたぜ」


 そう言って、立ち去ろうとする旺伝の背中に言葉が突き刺さった。


「待て」


「待たねえよ」


「いいや待て。これから話す依頼内容は君の失った魔力を取り戻す切っ掛けになるやもしれんぞ」


「何?」


 振り返ると、依頼人の男は薄ら笑いを浮かべていた。


「どうだ? 聞くだけ聞いてみないか?」


「っち」


 読めない男だ。そう思いながら旺伝は再び椅子に腰かけた。今度は脚を組み、腕を組んで、大事な所をキッチリとガードしながら話しを聞くのだった。


「そうだ。それでいい。話しを続けるぞ」


「頼むから、俺のショボショボとした眼を覚まさせる内容であってくれ」


 そう、釘を刺すのだった。


「依頼内容は実に簡単だ。今朝方、東日本から変異型の獣が侵入してきたそうだ。政府はまだ公にはしていないがな」


「ちょっと待て。東日本から侵入してきただと?」


「ああ。お前が魔力を失った場所だ」


「何でもお見通しって訳か」


「東日本は第三次世界大戦の核攻撃をモロに受け、今では死の灰が降り注ぐゴーストタウンと化してしまった。大戦から百年以上が経過したが、あそこは閉鎖されたままだ」


 依頼人の男は東日本の現状を知っているようだった。


「知ってるさ。俺はあの地を見たからな。この目で」


 人差し指で自らの目を指差したのだ。


「何を見た。あそこで」


「西日本から完全に隔離された東日本は、法も秩序も無い無法国家に成り下がっていた……そうニュースで聞いた俺はカメラを片手に東日本の地に立った」


「好奇心か」


「そう。完全に隔離されていて政府でさえ現状をしらない東日本。興味が湧いたのさ。誰も知らない情報を誰よりも先に手に取る事が出来るとな。でも、その考えは浅はかだった。東日本のほとんどは瓦礫の山で、特に核の着弾地点の東京は放射能に汚染されていた。百年の時を経ってもな」


「そこでお前は襲われた。怪物に」


「なんだ。知ってるのかよ」


「その怪物に致命傷を負ったお前は命からがら東日本から脱出。東日本と西日本の境界線上で倒れていたお前を政府の連中が助け出したと」


「ああ。その時の傷で魔力を生成する機能を失ったようだ。定かではないがな」


「だからこそ。今回の依頼はお前に相応しいと思ったのだが」


 旺伝の運命力も依頼した理由に入っているようだ。


「成程な。標的の死体を調べて俺が魔力を失った原因を調べようっていう魂胆か」


「そういう事だ。引き受けてくれるか?」


「ハハ、勿論。断る理由は無いぜ」


「ありがとう。成功の報告が入れば君の口座に今回の依頼金を振り込んでおこう」


「それで、標的が潜伏している場所は?」


「それは後に連絡する。電話をはなみ放さず持っておけ」


 そして、依頼人の男は立ち上がって、そのまま店から出て行ってしまった。残された旺伝は空腹と共にサンドイッチとブラックコーヒーを頼んで二度目の朝食を食べるのであった。




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