047
そうこうしている内に、二人はA校舎の一階に辿り着いた。反応によると一番奥の部屋が怪しいと踏んで武器を構えて突入する。すると、そこには鉄の扉が設置されているではないか。明らかに何か重要な物がこの先に隠されているに違いないと、旺伝は確信した。
「こいつは封印か?」
旺伝がラストラッシュに尋ねた。
「恐らく、隠ぺいでしょうね」
「隠ぺいか。それなら察しがつく」
地下室に恢飢の反応があるという事がだ。この学校が意図して恢飢の存在を隠しているのであれば、それを暴かねばならない。少なくとも、旺伝の本能はそれを望んでいた。
「この先に東日本の悪魔はいない可能性が高くなりましたね」
「この際だ。構わないさ」
構わないのだと言うのだ。
「さて、この扉はどうやって開くのでしょうか」
そこが基本だった。開かない扉などこの世に無いのだから、必ず開かせる方法は有る筈だ。
「蹴り飛ばしてみるか?」
「何を仰る。あれは鉄製ですよ」
「だったらどうするよ」
「爆破させましょうか?」
「ちょい待て……爆破だって!」
「これでも魔法使いの端くれですからね……爆破の魔法を撃てますよ」
そう言うと、ラストラッシュは門に向かって手をかざす。しかし、何も起こらないではないか。ただ時が無駄に流れたという最悪の結果になってしまった。侵入は時との闘いだと言うのに。これにはラストラッシュも自分の手の平を見て首を傾げていた。
「この学園……中級以上の魔法を校内で使うには教師の許可がいるそうだ」
スマホで足若丸魔法高等学校の公式ホームページを閲覧しながら、そこに書いてある注意事項を読み上げた。
「……早く言って下さいよ」
ラストラッシュは若干ながら頬を染めていた。自信満々に魔法が使えると言っておきながら、蓋を開けるとこうだったので、余程恥ずかしかったのだろう。
「魔法も使えない、扉に合う鍵も持っていない」
「待ってください」
肩をポンと叩かれた。後ろを振り向くと、ラストラッシュが顎に手を当てているではないか。これは名推理の予感がするとひそかに期待する旺伝だ。
「どうした、何か良い案が浮かんだか?」
「ええ、浮かびましたよ。鍵が無ければ鍵を探すのです」
「どうやってだよ」
「職員室ですよ。全ての鍵はあそこにあるでしょう」
「成程、そいつは名案だな」
「いえいえどういたしまして」
こうして二人はスマホのアプリで地図を見ながら、職員室の場所を確認した。地図によると、どうやら通り過ぎてしまったらしい。二人は一旦道を戻って、職員室に歩を進めた。
すると、目の前に普通科職員室と書かれたプレートを発見した。きっとあそこだろうと確信した二人は、ゆっくりと扉を開けた。無論、中は真っ暗なので懐中電灯で灯りを照らす。
「鍵はどこだ?」
「ああいうものは意外と近くに保管されていますよ。近くにある方が、取り出すのに簡単ですからね」
ラファエルの言う通り、数歩進んだ先に緑色のボックスを発見した。中を開けてみると、ビッシリと鍵が保管されているではないか。
「探すのが面倒ですね。この際、マスターキーで十分でしょう」
「そうだな。早く戻るぞ」
二人は鉄扉までの道のりを走った。そして、鉄扉に到着すると鍵穴にマスターキーを差し込んで、回した。
ガチャリ。
という音が響いて、無事に扉は空いた。如何にも重々しい外見とは裏腹に意外と手ごたえは軽かった。それにどうやらこの扉には魔法の仕掛けが施されていたらしい。
「この扉、透けていますね」
ラストラッシュが扉を触ると、確かに腕が貫通していた。まるで空気そのものではないか。
「地下に続く階段だ。えらく急だぞ」
「成程、無理矢理体当たりで開けようとした侵入者を奈落に落とす罠ですか」
「危なかったな。あの時蹴っていたら俺は」
下を見るだけでゾッとした。高所恐怖症は下を見るだけで怖いのだから。




