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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
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045


 玖雅旺伝くがおうでんとトリプルディー・ラストラッシュはヘリから降下した後、屋上からA校舎内部に侵入した。下の警備員たちはヘリに乗っている社員がミニガンを撃ちながら対処している。社員が日頃のストレス発散に大声を上げながらミニガンを連射している姿が、割れている窓ガラスから確認出来た。


「ちょい待てよ。派手過ぎじゃないか?」


 ミニガンを避けまくる警備員を見ながら、そう呟いた。社員は一心不乱に乱射しているので、まったく当たっていないが牽制には上出来だった。それでいて、敵をひきつけてくれている。


「大丈夫ですよ。この程度の被害なら」


 想定範囲内だと言うのだ。これぐらいならば。


「被害って言うか、侵入方法に問題があると思うのだが」


 こんな派手な侵入の仕方はないと思っていた。あまりにもド迫力過ぎて、これでは潜入とも呼べない。


「それよりも、恢飢探査機を見せてください」


 ラストラッシュは右手を差し出して来た。すると旺伝はポケットの中からスマートフォンを取り出して、その右腕に置いた。


「おう」


 この短時間でだ。ラストラッシュは試作機を元に、恢飢探査機のアプリを開発していた。そのおかげで持ち運びがスマートになり、スマホ片手で恢飢の存在を確認できる。さすが社長なだけあって、有能だ。


「うーむ」


 おまけに地図機能も向上しているので内部の様子も丸わかりだ。そのため、ラストラッシュは恢飢がいる階層が分かっている様だ。そして、その上で唸っているではないか。


「どうかしたのかよ」


 旺伝はラストラッシュの顔を見ながら尋ねた。


「どうやら、この校舎には地下があるようですね」


 スマホのとある部分を指差しながらそう言っていた。見ると、確かに地下の空間で恢飢の反応がピコンピコンと点滅している。


「マジかよ。やっぱりキナ臭い学校だ」


 蜘蛛の巣を払いのけながら、吐き捨てた。人というのは嫌いな物が多少なりともある。それが人だろうが物だろうがだ。この場合は学校だが。


「嫌になりますね。地下は」


 若干溜め息混じりで呟いていた。


「なんだよ、地下が嫌いなのか」


「色々ありましたからね」


「色々?」


「幼少時代、私の頭脳に畏怖の念を抱いた両親が私を地下に閉じ込めましてね。それ以来、地下が苦手なのですよ」


 あまり良い表情はしていなかった。いつも通り微笑みの貴公子なのだが、目は笑っていない。どうやら余程の事があったのだろう。


「閉所恐怖症の類か」


「ええ。そのふしも否定できませんね」


 そうだと言うのだ。否定できないと。


「そうなのか。今まで閉所恐怖症なんて理解すら出来なかったが、そういう意図が裏にあったとはな。そんな体験があれば確かに恐怖症にもなるか」


 旺伝も納得したようだ。重度の閉所恐怖症ならばエスカレーターにも乗れない人物がいる。さすがにそこまでの重傷ではないかもしれないが、少しラストラッシュの見立てが変わった瞬間だった。


「広い空間であっても、やはり暗いと怖いです」


 どうやら不安を感じているらしい。この先に進むことを。


「ちょい待てよ。暗所恐怖症もあるのか」


 旺伝は再び訊ねた。


「そうですね。これは仕方ありません我慢しましょう」


「我慢って……そんなので大丈夫なのか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 ラストラッシュは石の微笑みをしていた。あまりにも表情が硬い。よっぽど、具合が悪くなっているのだろう。高所恐怖症の旺伝にとっては碩大タワーの最上階で下を眺めている程度の怖さだと思って想像した。そうすると、どれだけ恐怖感を感じているかが理解できた。ヘリに乗った時だって、下を見るだけで呼吸すら困難になり。訳も分からずパニックになってしまった。ラストラッシュもきっとそのような状況なのだろうらが、パニックしている素振りをしていない。さすがは世界に20社以上の支部を持っているエリート社長だ。どんな時も冷静さを欠けていない。


「気分が悪そうだぞ」


 しかし、ついにこの室内かつ暗闇で気分が暗くなってしまったのかラストラッシュは中腰の姿勢で膝をついてしまった。


「光が、光さえあれば問題ありません」


 A校舎は長い間使っていない様子なので、いくらボタンを押しても電気が光りだすことは無かった。


「無理だ。電気がつかないぞ」


「こういうこともあろうかと、対策案は練ってあります」


 あるというのだ。対策案は。


「どんな対策案だ?」


「この間、研究スタッフが光を生み出す装置を開発しました」


 ラストラッシュは、そうだと言うのだった。



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