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早速、恢飢探査機の試作テストを行うとしている旺伝とラストラッシュは研究所の外に出ていた。
「では、テスト開始です」
ついに試作型恢飢探査機を使って、東日本の悪魔を発見できるかどうかのテストが開始しようとしていた。
「そうだな。やるか」
旺伝は両手に抱えていた恢飢探査機を地面に置いた。操作方法が分からないので、ラストラッシュに任せるために。
「では、動かしましょう」
「どう動かすんだ?」
「簡単ですよ。スイッチを入れるだけです」
「なんだよ。そんなに簡単だったのか」
「それでは、動かしますよ」
ラストラッシュはそう言うと、中腰の姿勢になってボタンをポチリと動かした。すると、マシンはウインウインと音を立てながら、画面が緑色に光っているではないか。しかも画面には赤い髑髏マークが何個も点滅している。そのどれもが研究所から発せられているのが地図で分かる。
「おお、研究所の中の恢飢に反応して点滅してるぜ」
「確かに、正常ですね。所長は完璧に仕上げてくれたようだ」
「でも、こいつは試作品なんだろ?」
これだけ完璧に見えるにも関わらず、ラストラッシュは以前に試作品だと言っていた。それが気になって思わず質問するのだ。
「そうですよ」
「何が足りないんだ?」
「クライノート社の職務内容をご存知ですか?」
ここで、ラストラッシュが尋ねてきた。旺伝は眠れない日の夜中にクライノート社の歴史を調べていたので、この件に関しては熟知していた。
「商品開発だろ?」
ものの1秒で素早く答えた。
「はい、そうです。お客様に喜んで頂ける商品を開発するのが私共の使命ですからね。つまりそういうことですよ」
無駄に大きい恢飢探査機のボディーをポンポンと優しく叩いていた。その姿を見て、答えと思しき導きをひらめくのだった。
「まさか、こいつも商品として売るのか?」
「ええ。リーズナブルなお値段でご奉仕する予定です」
「成程、今の段階ではこの機械は高すぎるのか」
自動販売機で買ったエナジードリンクを口にした瞬間だ。
「このサイズですと、日本円にして56万です」
あまりの値段設定にむせ返り、口からエナジードリンクの液体を放出してしまった旺伝はゴホゴホと咳き込んでいた。
「ちょい待て、高級なテレビが1台買えるぞ」
この機械が1台56万円もするのだというのだ。これには旺伝も目をパチパチと瞬きしながら、鼓動を高めていた。人は高い値段の物に手で触れてしまうと、どうしても『壊してしまったらどうしよう』という心理に追い込まれてしまう。特に貧乏ライフを満喫中の玖雅旺伝にとってはそうだ。どうしても指が小刻みに震えてしまう。
「旺伝君の給料1か月分ですね」
「もしもこいつを壊したら、また借金が増えるのか?」
「当然です。全額払って頂きますよ」
こういう時、ラストラッシュの微笑みは恐ろしい。金に関しては決して冗談を言わずに、真っ直ぐな目でこちらを見据えている。
「嘘だろ。もしもこいつをぶっ壊したら、阿鼻叫喚正社員奴隷地獄が1か月延びるのか」
束縛が何よりも嫌いな旺伝は、急に目の前がクラクラとして倒れそうになる。想像するだけでそこまでのショックを受けてしまう。
「そこまで大それた表現をしなくてもいいでしょう。それに壊さなければ何の問題もありませんよ。通常通りに300万円を支払っていただければ構わないので」
「1秒でも早く自由な時間が欲しいぜ。俺はそのために学校をやめたんだから」
溜め息を吐きながら、あらぬ方向を見る旺伝だ。
「それを言うなら、魔力が無くなったからでしょう?」
「まあ、それもあるが。俺は自由を求めて大自然を駆けるのが好きなんだよ」
「あら。山に感銘を受けなかったのにですか?」
「言ったろ、大自然だって。もっと緑に囲まれた場所が好きなんだよ。そこらの山に登ったぐらいじゃ、俺は満足できないぜ」
「そうですか。肝に銘じておきましょう」
ラストラッシュはそうだというのだった。




