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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
37/221

037


 このような少女に目的のブツが開発出来るのかと、心底不安に思った旺伝は、思わず額を押さえながら天井を見上げてしまった。それほど、不安なのだ。


「おめーみたいなガキんちょに恢飢探査機ルホンモリヤなんて造れるのかよ」


「大丈夫、大丈夫。心配しなくていいよ」


 ルリは満面の笑みで答えているのだが、どうにも信憑性に欠ける。そもそもピエロの帽子を被っているのが、より胡散臭さを跳ね上げる要因になってしまっている。


「ところで、恢飢探査機ルホンモリヤの開発状況はどうなっていますか?」


「バッチリだな」


 そう、胸を張って自信満々に答えている。


「本当かよ。にわかには信じがたいが」


「大丈夫だって言ってるでしょう。ホラ」


 彼女はコテコテと歩きながら、机に置いてある物体を両手で抱えてこちらに持って来た。それはあまりにも重々しく、レンガのような大きさの機械だった。


「これが……例のブツか?」


「そうだ。試作段階だけどね」


「ちょい待て。こいつで本当に東日本の悪魔を見つけられるんだろうな?」


 旺伝にとって今は恢飢の事なんぞどうでもよかった。重要なのは東日本から来訪した招かれざる客の行方。その一点だけ。


「東日本の悪魔だと?」


 ルリは初耳らしく、可愛らしく小首を傾げていた。


「ええ、そうなのですよ。ここにいる玖雅君は東日本の悪魔に呪いをかけられましてね。その呪いを治療するための方法を探っているのですよ」


 代わりに、ラストラッシュが旺伝の置かれている状況を説明していた。


「成程、それで悪魔を追いかけているというのか」


 ルリは納得した様子でフムフムと頷いていた。


「だから悪魔にも効果がないと駄目なんだよ」


「残念だけど、東日本の悪魔が検索に引っかかるかどうかは分からないよ。だってこれは恢飢を探すために造ったんだもん」


 伏し目がちになり、うるうると涙を流していた。


「ちょい待て、泣くことはないだろうが」


 女という生き物はいつ泣くか分からない。それが10歳程度の幼女ならば尚更だ。旺伝は頭を撫でてヨシヨシとしてあげるのだが、それで泣き止んだら苦労しない。大声こそあげていないが、ひくひくと肩を小刻みに揺らして、目に溜まった涙を小さい手で拭いている。


「長身の男二人に囲まれて、せっかく造った物を批判されたら悲しむでしょうね。子供は大人に喜んでもらうためなら、どんな事でも頑張れますから」


 と、ラストラッシュは冷静に分析をしていた。伊達に眼鏡をかけて真面目そうな雰囲気を出している訳ではないようだ。


「わ、わかったよ。こいつは凄い発明だな。感謝してもしきれないぜ」


「本当ですね。さっそくテストをしてみないと」


 すると、二人の褒め言葉が効いたのか、ルリは顔を上げていた。


「本当?」


 涙でくしゅくしゅになった顔を横に向けて、首を傾げている。


「勿論だとも。こいつがあれば鬼に金棒だぜ!」


 棒読みになっているが、仕方なかった。旺伝は演技が下手なのだ、しかしそれとはうって変わって、ラストラッシュは完璧な演技を披露していた。演技感を出さずに、自然な振る舞いで試作品の恢飢探査機ルホンモリヤを空中に掲げて、絶賛している。


「感謝してもしきれませんね。まことにありがとうございます」


「……そういってもらえると、嬉しいな」


 花が咲いた。まさしく正真正銘の笑顔だった。いつのまにかルリは泣き止んでいて、よっぽど褒められて嬉しかったのか小躍りしているではないか。


「これで、良かったのか?」


 ルリには聞こえない声で二人は会話を交わしていた。


「はい、バッチリですよ」


「俺はどうも子供は苦手だ。第一、好かれないし」


 嬉しそうに踊っているルリの姿を見ながら、ぼそりと呟く。


「子供に好かれそうな雰囲気はありますが?」


「雰囲気だけだ。俺は子供に嫌われてるよ。確実にな」


 確実だと確信していた。


「そうですか。しかし、この機械は少し重たいですね」


「無理すんなよ。細身のくせに」


 ラストラッシュは旺伝よりもスタイルがいい。モデル体型と言ってもいいだろう。


「私は理系ですから……体育会系の方が羨ましいです」


「仕方ねえな。俺が持ってやるよ」


「まことに……感謝致します」


 そう言いながら、ラストラッシュは震える手で恢飢探査機かききたんさきを渡してきた。しかし、ズシリとした重さは特に感じられず、大人ならば十分に持ち上げられるレベルの重量だろう。


「なんだよ、そんなに重たくないぞ」


「人間の握力は才能によって決まりますからね。私には才能がこれっぽっちもないようです」


 それは、ラストラッシュの弱みが垣間見えた瞬間だった。



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