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それは有り得ない光景だった。生真面目にスーツを着た二人の男がハーレーに跨って高速道路を走っている。
「まさかアメリカの最新型ハーレーに乗れるとは思えなかったぜ」
バイク好きの旺伝は鼻息を荒くして興奮していた。色も旺伝が好きな青色だ。その後ろから金色に光り輝いているハーレーが前に出てきた。こちらにはラストラッシュが乗っている。二人はヘルメットについている無線で話をしていた。
「私も乗るのは初めてですよ」
「なんでだよ、こんないいバイクなのに」
少しもったいぶった口調になっていた。
「私はコレクションが趣味の人間ですからね。使うのはあまり……」
だと言うのだった。
「好きじゃないってか?」
「傷がつくのが嫌でしょう?」
「それじゃなんで俺に使わせてくれてるんだ?」
「玖雅さんの喜ぶ顔が見たかったからに決まっているでしょう」
ラストラッシュは穏やかな口調で言っていた。
「ちょい待て、いつからそんなマイルドな男になったんだ?」
「私は基本的に争いごとが苦手な大人しいタイプですよ」
「嘘つけまったく……初対面でナイフつきつけてきたのはどこのどいつだ?」
「あの時は貴方様が御先に拳銃をつきつけてきたからでしょう。防衛本能ってご存知ですか?」
「どう見ても怪しい奴だったからな。仕方ないだろう」
それに、ミッションの最中だったから余計にラストラッシュが敵に見えた。恢飢が侵入している筈の屋敷に人がいれば怪しいと思うのは当然だろう。
「この私が……怪しい?」
「誰がどう見ても怪しさ抜群だぜ」
「どのあたりが?」
ラストラッシは訊いてくるのだった。
「どのあたりがって……自分で分からないのかよ!」
思わず、突っ込みを入れてしまう。
「宜しければ教えてくださいませ」
相変わらず丁寧な口調だ。ラストラッシュが口早々に怒るような事はありえるのかと疑問に思うほど。
「俺が説明してやろうか」
「是非ともお願い致します」
その、ゆっくりな喋り方には睡眠導入効果があった。まるで耳元で子守唄を聞かされている様な感覚に陥ってしまい、ついついフラフラとバイクを揺らしてしまう。
「いいか、金髪のモヒカン野郎がスーツ着てるなんておかしいと思わないか?」
「それはどうでしょうか。私は普通だと思いますが」
ラストラッシュの感覚は色々とズレている。きっとお金を持ち過ぎて一般人と違う感覚になってしまったのだろと旺伝は推測をする。
「俺から見れば、不良のあんちゃんの就職活動記にしか思えないぜ」
「それは些か不満ですね。実はこの私、就職活動を体験したことがないのですよ。ですから検討違いも甚だしいという事になりましょうか」
「冗談だよ、冗談」
「ああ成程。冗談でしたか」
話していくうちに、自然とラストラッシュのペースに飲み込まれてしまう。さすが社長ということもあってか、言葉の力も強いようだ。
「生まれ故郷にもジョークはあったのか?」
「インドジョークはありましたね」
「なんだよ。インドジョークって」
「たとえば、カレーをスプーンで食べているところを外国の方に見せて驚かせるとか。インドの特色を生かしたジョークですよ」
ラストラッシュはそうだと説明している。
「なんだ、ジョークって奴は世界共通らしいな」
「ヨガ教室でサンバを踊って見たりとかですね」
「そんな事されたら笑っちまうぜ」
そう、人は常識だと思ったことを目の前で覆らせると条件反射的に笑ってしまうのだ。
「それがインドジョークです。私はあまりしていませんが」
「そうだな。てめえがジョーク言ってる姿は見た事ねえ」
「仕事ではいいますよ、勿論。それが礼儀ですからね」
冗談を言えない人間は社会に出てバカにされるのが落ちだ。ラストラッシュはそれを知っている様で、仕事ではジョークを交わしているというのだ。
「お前のジョークは色々な意味で真っ黒だろうな」
ラストラッシュのさりげない毒舌を旺伝はこの数日で身にしめていた。
「人聞きが悪いですね。軽めのジョークも用意していますよ」
ラストラッシュはそうだと言うのだった。




