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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
31/221

031


 会議は終わった。重役の皆が部屋から出ると、ようやく重々しい空気がマシになってきた。会議中はまるで、強力なベルトで腰を締め付けられるような感覚が襲ってきた。それはあの二十二の社長全員から発せられたものではないと知っている。一人だけ殺意の念を全身から放出させている者がいた。名前は知らないが、その人物から発せられるオーラの剣先は常に旺伝の心臓部を狙っているかのような、そんな気がしていた。


「お疲れ様でした」


 ラストラッシュの労いの言葉が初めて心に響いた。それぐらい、この短時間でパワーが消費されてしまった。


「本当にお疲れだったぜ。なんだよ、一人だけ俺に殺意を向けた奴がいたぞ」


 思わず、ただ立っているだけなのに肩で息をしてしまう。まるで、フルマラソンを走ったかのようにカロリーが消費されているようだ。


「あらら。気がついていましたか」


 どうやら、ラストラッシュは元より知っているようだ。


「だったら注意してくれよ。まったく会議に集中出来なかったぞ」


 旺伝はサングラスを上げて、額の汗をハンカチで拭いた。


「まさか会議の内容を聞いていないとおっしゃりませんよね?」


「そのまさかだよ。立ってるだけで精一杯だった」


 汗で体温が奪われて、息絶え絶えだったのだ。その状態じゃ会話など入ってくるはずも無かった。


「その様子じゃ、メモも書いていないのでしょう?」


「ああそうだ。だがな、もしもだ。もしも文句があるなら、俺をこんなグロッキー状態にした野郎に文句を言えよ。それと、奴は一体何者なんだ?」


「その前に、会議の内容を説明しておきましょう」


「今更どうだっていいさ。会議なんてよ」


 旺伝の頭の中では、殺気を放っていた野郎の正体が気になって仕方が無かったのだ。


「いいえ。貴方に関係する議題でした。東日本に現れた悪しき生物を探し出し、駆除する方法について議論していたのですからね」


 ラストラッシュはそうだと言うのだった。


「なに、そうなのか?」


「会議中、貴方は何度も頷いていらっしゃったではありかせんか」


「すまないな。空返事って奴だ」


 肝心の話しを聞きそびれてしまっていた。立つことに必死で。


「それはいけませんね。一から説明しないといけないようですし」


「簡潔に頼む。今も結構疲れてるんだ」


 早くトイレに行って、ベッドの上で眠りたかった。それに朝から精神安定剤を飲んでいないので、旺伝の中に巣食う悪魔が暴れ狂っている。そいつを抑え込むだけで必死だった。


「分かりました。会議の結果、東日本の悪魔を捜索するために我が社の新商品を試すことになったのです」


「新商品……か」


 今度は聞き逃さないように集中して耳を傾けて、ラストラッシュの一言一言を正確に把握する。


「ええ。その名も恢飢探査機ルホンモリアといいます」


恢飢探査機ルホンモリア


「本来は、恢飢かいきの反応を調べるために開発しているのですが、もしかすると東日本から抜け出した彼の鼓動も察知できるかもしれないと思いついたのです」


 恢飢かいきとは世界中に潜伏している化け物どもの総称だ。どこからやってくるのか、またどこで生まれているのかが一切不明で、科学者の間からナウい研究材料として注目を浴びている。しかし、今の所何の成果も得られていないのが現状だ。分かっているのは人間の魂を喰らって、動く廃人にすることぐらいだが。


「本当に効くのかよ」


 半信半疑だった。


「さあ、まだ何とも言えませんね。そもそも出来上がっていないのですから」


 出来上がっていないのだと言うのだ。旺伝は思わずひっくり返ってしまう。


「ちょい待て。開発中ってことか」


「ええ。完成まで一か月はかかるでしょうね」


「一か月って……」


 十月が近いという事だ。その時期になると新卒の学生たちがこぞって就職に熱くなる。経営者にとっては優秀な人材を確保するための、さしづめゴールドラッシュと言ったところか。


「それまでは最低でも私の会社で働いてもらいますよ」


 一か月だ。一か月は拘束されるというのだ。


「こんちくしょう……イカレてるぜ」


 旺伝にとって会社で働くということは死よりも屈辱的かもしれない。それでも借金という枷を外すために、秘書として働くしかなかった。




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