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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
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030


「ぬう、寝過ごした」


 結局、朝の3時に眠りについた旺伝は4時50分に目が覚めてしまった。重役会議が始まる10分前だ。こうしてはいられないと、旺伝はいつもの青いサングラスと青い上下の服に着替えて、部屋から飛び出る。さすがに今日遅刻したらとんでもないことになると重々承知している旺伝は、珍しく焦った様子で階段を駆け下りると、足がフラフラともつれて、転んでしまう。


「キャッ!」


 すると、下の階段にいた女性に体当たりしてしまい、彼女が持っている書類をぶちまけてしまった。しかし、そのぶつかった女性は妙に軽くて違和感を覚えた。まるで子供のような柔らかさもあった。そう思った旺伝は、衝撃で吹き飛ばされて、階段の段差に座ってしまっている女性を確認した。


「ちょい待て。嘘だろ」


 少女だった。紛れもない。少女が制服を着て赤い眼鏡をかけているのだ。明らかに不自然でコスプレではないのかと疑う程である。


「あ、ごめんなさい」


 少女はそう言うと、書類をかき集めて上の階にそそくさと上がって行き始めた。突然の光景に茫然自失となる旺伝だったが、ふと腕時計を見ると、4時58分になっていることに気が付き、慌てて会議室に向かった。そして、全速力で廊下を駆けながら会議室の扉を両手で開いた。


「すみません遅くなりまし……た」


 彼の目に飛び込んだ光景は異質としか言いようが無かった。20人程度の重役らしき人物が椅子に座って、厳格の面持ちで旺伝を真っ直ぐに捉えていた。まるで、ライオンの檻に入れらたような恐怖感と密閉感を感じさせられる。彼らのほとんどが外国人なのも威圧を与えられる要因の一つになっているかもしれない。とにかく、ちゃんとした会社の重役会議であることを一瞬で理解した旺伝は、真ん中のトップに座っているラストラッシュに歩み寄った。歩きながらでも強烈な視線を感じる。


「遅いですね」


 なんとかラストラッシュの元に辿り着くと、開始早々に嫌味を言われた。なぜなら、まだ4時59分で会議の時間にはギリギリ間に合っているからだ。それを腕時計で確認した旺伝は納得が出来ない様子で、こう答える。


「ちょい待て。まだ5時になってないぞ」


「何を言っているのですか。最低でも、10分前には職場に着いていないと駄目でしょう。これからは10分前行動を心掛けてくださいね」


 珍しく、ラストラッシュは笑っていなかった。真剣そのものの顔をしている。その勤勉な態度に驚きを隠せない旺伝は、


「わ、分かったよ。俺が悪かったから」


 素直に自分の非を認めるのだった。


「それでよろしい。では、経営者会議を始めましょうか。玖雅さん、メモの準備を」


「わ、わかった」


 旺伝はポケットの中に入っていたメモ帳とボールペンを取り出して、スタンバイした。何を書くのか分からないが、取り敢えず重要そうな事柄をメモするように心がける。


「新米の旺伝さんに説明しておきますが、今回集まって下さった皆様はクライノート社支部の社長です。我が社は二十二の国に支部を設置しているのですが、今回は支部の社長全員が勢ぞろいしています」


 ラストラッシュは説明していた。


「そんなに重要な会議なのか」


 目を丸くして驚きを隠せない旺伝だ。緊張と興奮で、眠気も一気に吹き飛んでしまった。


「ええ。今回皆様に集まってもらったのは他でもありません。東日本から未知なる生物が解き放たれました。しかも、ここ日本支部の近くに潜伏している恐れもあります」


 彼の一言に会議室内はザワザワとざわめき始めたのだった。


「東日本から脱走してきたって?」


「ありえねえぜ。そいつは」


「ラストラッシュのアニキ。そいつは本当の話しなのかい?」


 支部の社長たちが口を揃えて信じられないと言っていた。なぜなら東日本と西日本の境目には一個師団分の海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊がそれぞれ配備されていて、24時間体制で厳重な警戒配備を敷いているのだ。そこを潜り抜けるということはすなわち、自衛隊の敗北を意味することになる。


「残念ながら、私は嘘をついてまで貴方達を会議に呼ぶつもりはありません。真実だからこそ緊急召集したのですから」


 ラストラッシュは眼鏡をクィっと持ち上げてそう言うのだった。



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