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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯1 山羊頭の男
3/221

003


 漸く屋敷に警官が到着した。旺伝は玄関で警官に防御されていた雇い主に話しかける。


「ちょいちょいオッサン、相手は恢飢じゃなくて強盗だったぞ。よくもこの俺を騙したな」


「強盗?」


「そうだよ。金髪のモヒカン野郎が屋敷を荒らし回ってたぜ。まあ……この俺が奴を追い返してやったけどな」


「それは初耳だ。情報が漏れていたのか」


 白髪のオジサンは顎に手を当てて悩み事をしているようだった。


「おいおい、俺にも分かるように説明してくれないか」


「ふん。フリーターに国家の重要案件を話すと思うか?」


「なんだと。俺は強盗に殺されかけたんだぞ。なんで俺は死にかけたのか……その理由ぐらい教えてくれよ。国防長官さん」


 相変わらずジェスチャーを多めにして話す旺伝だった。


「いやいやいや。それとこれは話が違う」


「どう違うんだよ」


「いいか。報酬金はやるから黙って帰れ。恢飢がいないと分かれば、御前は用済みなのだよ」


「なんだその態度……」


 次の言葉を言おうとした瞬間、ソードオフショットガンを喉元に突き付けられた。国防長官が目にも止まらぬ速さで胸元から取り出していた。


「出て行け。三銭祓魔師」


 銃を構えながら、無理矢理、ポケットに小切手を捻じ込んできた。


「ぐっ!」


 旺伝は仕方なく後ろを振り返って外に出た。そして、不機嫌そうに顔をしかめてポケットに手を突っ込んで歩き続けていた。交差点、やたらと待ち時間が長い信号、都市部、鉄橋などを進み続け、着いた場所はオンボロのアパートだった。そこは二十二世紀では珍しく風呂がついていないアパートであり、本来なら学生が無料で使える寮なのだが、旺伝はこっそりとそこに住み着いていた。大家に許可を取れば公式で使わせてもらえたかもしれないが、何分、人に頼みごとをすることが嫌いな旺伝だ。だから、彼はベランダからこっそり侵入して自分の部屋に入った。


「ただいま……って誰もいねえか」


 旺伝は十七歳で一人暮らしをしていた。その理由は学校を辞める事で父親と喧嘩したからだ。一悶着あってから彼は日本に帰ってきて、ここに居座っている。


「取り敢えず、暫くの間は生活費に困らないな」


 彼は畳の上に寝転がって、ポケットから取り出した小切手をヒラヒラと左右に動かしていた。



 ガタッ!



すると誰もいない筈の部屋の中で物音がしたのだった。


「そんなはした金で喜ぶとは」


「!」


 人の気配がする方向にハンドガンの銃口を向ける旺伝。


「弾は入っていないでしょう。玖雅旺伝」


「なんで俺の名前を……!」


「もう忘れたのですか?」


 すると、押し入れからモヒカン頭の男が出てきたのだ。そう、気配の正体はトリプルディー・ラストラッシュだったのだ。彼は何故か青い色の着ぐるみに着替えて、狸のコスプレをしていた。しかも、胸に白いポケットを装着している。


「てめえ。俺のハウスに忍び込んでいやがったのか。しかも……なんだその格好」


「何を仰る。押し入れと言えば狸の寝床でしょう」


 ラストラッシュは狸の着ぐるみを脱ぎ始める。押し入れにいて暑かったのだろうか、額から一筋の汗が流れていた。


「ちょいちょい、分かるように説明してくれよ」


「それはさておき」


「さておくなよ!」


 旺伝は突っ込みを入れる。


「私が何故、あの屋敷に侵入したか。理由を知りたいでしょう?」


「待て。それを教えるために態々俺の後をついて来たのかよ」


「さすがですね。感が鋭い」


「昔から頭の回転は早い方なのさ。家族で一番だろうな」


「本当は君をスカウトしに来ました」


 ラストラッシュが胸ポケットから名刺を取り出した。旺伝は警戒しながら近づいて、その名刺を乱暴にひったくった。


「ルナリス王国盗賊ギルド支部支部長……トリプルディー・ラストラッシュ」


「そう、私はギルドの者です。どうですか、私と一緒に政府に認められた泥棒職をしてみるのは?」


「ハハハ。自衛隊に匹敵する裏有りのスカウトだな。口では良い所だけを喋って、裏の汚い部分を喋ろうとしないのだろう?」


「随分な言い振りですね。もしや、自衛隊に恨みでもあるのですか?」


 ラストラッシュは聞き返してきた。


「ねえよ。友達から聞いた話しだ」


「そうですか」


「それで、秘密を教えてくれるのか?」


「貴方が私の元に来ると約束すれば教えてさしあげましょう」


「それなら断る」


「何故?」


「盗賊なんて仕事はオシャレじゃねえだろ」


 そう、オシャレじゃないと言っている。


「オシャレじゃない?」


「このご時世だからだからこそ俺はシャレた職業に就きたいんだよ。人から大事な物を盗んで生活をする盗賊なんてナンセンスにも程があるぜ。分かったら他を当たってくれや」


 旺伝はボロ布のソファーに腰かけた。その旺伝をラストラッシュは立ったまま見下ろしていた。


「残念ですね。貴方には盗人の才能があるのに」


「それ、褒めてるのか?」


「まあいいでしょう。気が変わったら名刺に書いてる連絡先に電話してください。朝昼晩を問わずとも大丈夫ですよ。盗賊ギルドは二十四時間貴方の近くで働いてますから」


「出来れば、俺の近くでは働かないでくれ」


「そうですね。覚えておけば、そうしましょう」


 ラストラッシュは律儀に玄関を開けて出て行ったのだ。


「ぶはっ!」


 奴が出て行った瞬間、旺伝は全身から大量の汗を流してトイレに駆け込んだ。そして、和式便所に大量のゲロをぶちまけた。


「オロオロオロオロオロオロ」


 十分近く吐き続け、旺伝は青白い顔をしてトイレから這い上がってきた。まるで昼夜逆転の生活を続けて自律神経が崩壊している人間のような顔で。


「くそ。今日食ったスイカが腹を下したのか?」


 そして、そのまま、玄関先でぶっ倒れた旺伝だった。




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