026
「お前さんは……」
山父の言葉に静かに耳を傾ける。
「なんだ」
そして尋ねる。
「将来的に責任感が問われる職に就くだろう」
なんと。縛られることが嫌いな旺伝が責任感に問われる職に就くと言うのだ。
「それは本当か?」
「ちげえねえ。オイラの予言の的中率は百パーセントだぜ」
素晴らしい自信に満ち溢れていた。
「なんとも言えないな。この予言は」
「まあまあ、続きがあるから良く聞きなされよ」
山父はそう言うのだった。続きがるのだと。
「そうだな。聞くとするか」
「旺伝よ……お前さんはその仕事で命の危機に迫られるぜ」
「そうなのか」
危機感という物を感じられない一言だった。
「なんだよ。えらくテンションが低いじゃねえか」
「俺はそれまでに生きていられるのか、まずそこから不安だ」
旺伝は呪いに掛けられている。悪魔への変身を可能とする代わりに、老化が急激に進んでしまうという恐ろしい呪いに。もしも過度な変身を行う事態に陥ったら、旺伝の体は老体になっていしまう。
「読めないな」
「読めないだと?」
「空白の時間になっている。お前さんの近い未来は」
「要するに、死んでいるということか?」
「いいや。お前さんが特殊な職に就く前の期間が見れないんだ。この期間になにがあるのか……オイラにも分からないな」
「予知能力をもってしてもか?」
「てやんでい。オイラにも見えない未来はあるのさ」
完璧な存在などありえないということだ。
「たとえばどんな未来だ」
「運命回廊を彷徨っている未来」
小さく、しかしハッキリとした声で呟いていた。
「運命回廊?」
聞き覚えの無い単語に謎を覚え、旺伝は聞き返した。
「常人の人間ならば運命は一本道だ。しかし、どうもお前さんの場合は運命力が強すぎて、様々な種類の運命に枝分かれしている様だぜ」
「それが運命回廊なのか」
「この一年、激動になることは間違いないだろう。だが、その先には希望が待っているぞ」
責任感の強い職に就くことだ。それが果たして希望なのか。
「就職という名の希望か。悪夢の間違いじゃないか?」
旺伝は正社員になって働くことを忌み嫌う。どうせなら自分が社長になって事業を立ち上げたいぐらいなのだ。
「何言ってんだ。中卒のお前さんにとって一番の希望は就職だろう」
「それには同意しますよ。私も旺伝君の将来が心配です」
接客業を除けば、中卒で正社員になるのは難しい。ましてや大企業であれば尚更である。ラストラッシュは社長であるが故に、そのことを心配しているようだった。
「で、その運命回廊を突破すれば一本道の運命が待っているのか?」
「そうだ。生き残る可能性は十分にあるぜ」
そうだというのだ。旺伝はこの先、生き残るチャンスは巡ってくると。
「だが、就職しても命の危険と隣り合わせであるというのか」
「人生ってのはそんなモンだよ。常に銃口をつきつけられていると思え。生物ってのは脆い体なんだから、いつ死ぬか分からねえよ」
「山父もいつ死ぬか分からないのか?」
「オイラが読めるのは部分的な未来だけだ。全部って訳じゃねえ……。それに自分がいつ死ぬかなんて想像したくもないのさ」
予知能力にも限界がるといういことだ。全ての未来を読める訳では無い。
「それじゃ、この先世界で起こる大災害や世界大戦はどうだ?」
「そんなデカい規模の未来は無理だぜ」
「なんだよ。その程度なのか」
「オイラはしがない妖怪だ。神話に出てくるお偉い預言者じゃねえからよ」
「それでも山父様は断片的に未来が読めるのです。まさに神の能力ですよ」
ラストラッシュは絶賛していた。
「そうかもしれないな」
「実は私も山父様に未来を見てもらったことがあるのです」
以前にあったというのだ。
「へえ、どうだった?」
「とある人物の往く末を見届ける運命と」
「ああ。そんなこと言ったけな。随分と昔のことだから忘れちまったぜ」
山父は相変わらず腹から声を出して笑っていたのだった。




