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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
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 碩大山せきひろざんを登った頂上に一軒家があった。一軒家と言っても、藁と木で造られた木造の家だ。見たところ一階しか存在していないようで、二階部分は無いようだ。この科学が発展した二十二世紀では比較的に珍しい建物である。ラストラッシュはその建物を指差して、こう言った。


「あそこです。山父やまちち様が住んでおられる場所は」


「なんだよ、俺の家よりボロいな」


 確かに、旺伝が住んでいる築三十年以上のアパートより脆い造りになっていた。ところどころの柱がめくれていたり、屋根が二十度ほど傾斜になっている。強風に巻き込まれれば、たちまち全壊してしまうのではないかと心配になるぐらいに。


「彼は近代的な物に嫌悪感……いやトラウマを持っていますからね」


 ラストラッシュは山父が住んでいるであろう家を真っ直ぐに見つめながら、口を動かしていた。


「それで、これはどうするんだよ」


 旺伝は首にぶらさげている虫かごを見せた。すると、虫かごの中にはカブトムシやらクワガタムシやらミンミンゼミやらが犇めき合っていた。全て、旺伝とラストラッシュの共同作業で捕まえた虫である。


「彼に持っていきましょう。手土産としてね」


 手土産だというのだ。この虫たちが。


「たぁ! 虫が手土産だと!」


 虫が苦手な旺伝は理解しがたいという感覚に陥っていた。


「山父様は自然を愛しておられますから、必然的に虫が好きになるのです」


「虫が好きなんて……俺には考えられないが、まあ、人それぞれか」


 苦い顔をして、虫かごの中を覗き込む。すると、嫌悪感を示した顔で、表情がひきつってしまっていた。これでよく、虫取りなぞ出来たものである。


「では、行きましょうか。山父様の元へと」


「そうだな。意を決して行くか」


 そうして、二人は玄関を開けた。横にスライドする形式の扉だった。立てつけが悪く西日が当たるのか、固くて中々開けられなかったのだが、ラストラッシュの力を借りて何とか開いたのだった。




「お邪魔しますよ」


「邪魔するぜ」




 二人は日本式に靴を脱いで玄関を上がり、すぐそこの和室に上がりこんだ。すると、そこには深く麦わら帽子を被った男が後ろを向いて座っていた。背中だけしか確認できないが、どうやら浴衣を着ているようだ。


「てやんでい。オイラを立ち退かせようとする政府の連中か? 生憎な、この家から退くつもりは一片もねえぜ。とっとと帰りな」


 まるで、古い落語家のような喋り方だった。


「違いますよ。私はトリプルディー・ラストラッシュです。お友達の玖雅旺伝君を連れてまいりました」


 山父は、そろりそろりと回転して、後ろを振り返る。


「!」


 その瞬間、旺伝は仰天して尻餅をついてしまった。目の前の山父という男は青い顔をして、右目が異常に大きく、左目が異常に小さいという異形の顔立ちをしていた。


「何だ此奴。人の顔見て尻餅つきやがって……まさか、オイラの正体を教えなかったのかよ。あめよ。随分と久しぶりじゃねえか」


「その二つ名はあまり好きではないのでやめてください」


 ラストラッシュと山父は懐かしといった表情で話していた。しかし、旺伝は訳が分からない様子で、サングラスを掛け直した。


「なんだよ、急に話が進んでいくぞ」


 旺伝はラストラッシュに手を取られるようにして起き上がった。そして山父という人物の顔をマジマジと見つめる。


「実はなオイラは妖怪なんだぜ」


「妖怪? この学校には妖怪がいるのか」


「あたぼうよ。この山の主だぜ!」


 山の主は妖怪だと相場が決まっている。どこの山にもこういった妖怪はいるのだ。しかし、


「山父様の種族はみんないなくなりました」


「そうだ。オイラは山父族の最後の生き残りだ。オイラは元々高知県のとある山に住んでいたのだが、都市開発計画だなんだとぬかして、政府のお偉方が山を切り崩し始めたのさ。そこを今の理事長に拾ってもらって此処に住んでいるって訳さ」


足若丸魔法高等学校あしわかまるまほうこうとうがっこうの理事長か。」


「そうだぜ。あの方がいなかったらオイラは途方もなく彷徨って、人間に殺されていただろう。理事長さんには感謝してもしきれねえよ」


 山父は手を合わせて仏壇にお祈りしていた。と言っても、理事長は死んではいないが。



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