022
東日本は核戦争で荒廃した地区として、今現在も閉鎖されている。しかし、その東日本の現在に詳しい人物がいるとラストラッシュは言っていた。これは旺伝の呪いを解くヒントにもなるかもしれない。さっそく旺伝は目の色を変えて、ラストラッシュに詰め寄った。
「東日本に詳しい人物だと?」
ピクッと反応した。
「ええ。知っていますよ。紹介してさしあげましょうか?」
「勿論だ。東日本に関する文献を読んだことはあるが、ほとんど空想上にしか過ぎないおとぎ話だった。俺は真実を知りたい。東日本を牛耳っている者は誰なのか、何故呪いが存在するのかも」
旺伝はそう言うのだった。神妙な面持ちで。
「ですが、彼は一筋縄ではいかない、厄介な人ですよ」
眼鏡をクィと持ち上げる。ラストラッシュがこれをする時は、大概何かを企んでいる時にしていたのだが、この際、背に腹は代えられない。
「構わん。なんとしてでも聞き出す」
旺伝の眼に決意の炎が赤く燃えていた。普段はクールに見せているが、こうして燃えたぎることもあるのだ。
「分かりました。それでは彼にコンタクトをとりましょうか」
すると、ラストラッシュはロッカーを開けて、中腰の体勢でごぞごぞと手を入れていた。どうやら何か探しているらしい。そう思って旺伝は無言で見つめていた。そして、ラストラッシュが取り出した物は想像を超える代物だった。
「おい……それって」
旺伝は指を差した。
「今の時期にピッタリでしょう」
ラストラッシュは嬉しそうにブツを見せているのだが、肝心の旺伝は嫌悪感を示して、顔がひきつってしまっている。
「嘘だろ。それを着ていくのか?」
声が震える。本来なら、社長室のロッカールームに入っているものではないからだ。
「当然です。貴方の分もありますよ」
そう言って、ラストラッシュは二着目をロッカーから出した。
「お、俺はいらない」
全身から拒絶反応が噴き出て、呂律が上手く回らない。
「何故ですか?」
「ナンセンスだ。そんなもの……」
思わず目を伏せてしまうほどの服だった。しかし、
「これを着た方が、彼とコンタクトを取りやすいと思いますが」
「……分かったよ。着ればいいんだろう!」
半ばキレた様子でラストラッシュが用意した服に着替えた。あまりの恥ずかしさに顔から火が噴き出そうになる。
「似合ってるじゃありませんか」
「どこがだよ。こんちくしょう……」
鏡で確認してみたが、やはり異端そのもの格好だった。明らかに年齢とあっていないのだ。これが。
「では、行きましょうか。目的の場所へ」
しかも、ペアルックで行くのだ。二人共同じ服を着ていた。
「遠いのか?」
うんざりした様子で肩を落としながら訊くのだった。
「いいえ近いですよ。その方は碩大山に住んでおられます」
「碩大山か」
碩大区が誇る最大級の山だ。その大きさは見る者を圧倒する程で、世界文化遺産にも登録されているのだが、目的の男はその山に住んでいるというのだ。
「ええ、あの山には色々な生物が暮らしていますよ。目当ての人物だけではなく」
「だが、碩大山に入るためには学校の許可がいるだろう」
学校の許可が。
「そうですね。足若丸魔法学校の許可が」
そうなのだ。碩大山は学校が保有している土地に聳え立っている山なのだ。そのため、入るためには足若丸魔法学校の許可が必要なのだ。誰でも入れる訳ではない。
「そもそも、入って大丈夫なのか?」
脳内で疑いが走る。部外者の自分が敷地内に入ってもいいのかという疑いが。
「大丈夫ですよ。私には社長のコネがありますから」
社長のコネとツテは圧倒的だ。それが大企業とならば尚更である。旺伝はそれを瞬時に把握したようで、ホッと胸を撫で下ろした。
「なら、期待しよう」
こうして、二人は碩大山を目指して歩みを進めたのだった。




