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疲労感を感じてからが本当のスタートだと旺伝は感じながら、一文字左衛太朗の待つ級帝曇叡神殿と呼ばれる場所に向かっていた。全ての区の中で最大級の面積を誇る碩大区の中でも級帝曇叡神殿は最南端に位置している。とてもじゃないが歩いていくには厳し過ぎるので朝早く起きて電車を利用しようと思っていた。しかし、どうも朝早く起きるのは苦手で寝ぼけ眼を擦りながら電車に揺られていた。ずっと前から徹夜が当たり前だったので朝に弱くなってしまった。朝は希望の朝と呼ばれるぐらい活気に満ち溢れている時間なのだ。本来ならば朝から選挙カーを走らせた方が目覚まし変わりになって都合が良い。しかし、選挙カーは虚しくも午後や夕方に車を走らせているので目覚まし代わりにはなってくれないようだ。それに文句を感じながらも旺伝は手すりに掴まって振り落とされないように必死の形相を浮かべていた。電車内は満員なので自然とお年寄りに席を譲らないといけない。
「この電車だけ人口密度が濃くないか?」
ハリティーに話しかけたのは満員電車だという理由だけでは無い。偶然にもガテン系のイカニモ親父が多く乗っている電車だったのだ。これから、このオジサン達がナニをするのかは知らないが良からぬプレイを企んでいるのは日を見るよりも明らかだった。大人になればナニをやっても自由だと言われるが、分別は必要だ。きっと彼等は近場の発展場に顔を出して暑苦しい身体を揺らしながら、汗臭い皮膚を重ねるのだろう。決定的だとは言えないが、そうに決まっている。それをハリティーに気が付かせて意見を仰ごうとしていたのだ。するとハリティーもイカニモな集団を目撃して察した表情を浮かべていた。
「ねえねえ。あの人達……発展場の常連客じゃない? 見るからに汗臭いプレイが好きそうな顔してるよ」
ハリティーも分かってしまったようだ。彼らが同性愛者のグループで今から発展場に行ってよからぬプレイに身を投じるのだと。それを知ってしまえば後は自分達に何も出来ない。彼等の邪魔をするのはすなわち、同性愛の否定をするのと同じなので下手な事は言えない。それだけ彼等は虐げられた者だと自虐しているので、刺激してしまうのは合理的な判断とは言い難いのだ。
「ああきっとそうだな。そっとしておこう」
だから旺伝はそうだと言うのだった。そっとしておこうと。彼にも自由はあるので旺伝が気に留める必要もないのだ。しかし彼らはコンドームもつかわずに生の種を飛ばしそうな表情をしていたので、どうしても気になってしまう。コンドームの着用をせずに汗臭いプレイに身を投じるのは感染症を引き起こすきっかけになるので、コンドーム着用は絶対条件だ。これは誰にでも分かる事だ。しかし、目の前のにいるイカニモ系の親父集団は見た目からしてゴムの必要性に着手していない感じがするのだ。