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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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206


 ラストラッシュに電話してアポを取ってもらった。会う約束を明日に控えて旺伝とハリティーは近くの温泉宿に泊まっていた。せっかく明日にはビッグネームと会う約束をしているのに、ボロ宿には泊まれない。プロ意識を抱くのは明日ではなく今日からだ。明日出来る事のほんとどは今日出来るので、明日に気持ちを延長する必要はない。思い立ったら直ぐ行動。この基本概念さえ出来ていれば、人生も楽しく生きられると旺伝は信じていた。だからこそ温泉宿に決定したのだった。


「体の疲れを温泉で癒す。これが社会人の唯一の楽しみだぞ」


 旺伝は温泉に浸かりながら有頂天に鼻唄を披露していた。隣ではハリティーが酔った中年親父のように盆踊りをしている。ここは混浴風呂なので男と女が一緒にいても問題無いのだ。それに旺伝は、隣に浸かっている老人とも仲良くなっていた。どうやらこの老人は温泉宿の常連らしい。こんな高級旅館に常連しているのdから、さぞお偉い役職に就いているのだろうと察していた。


「確かにその通りじゃな。ワシも学生時代には良く分からなかったが、大人になって温泉の魅力に気が付いたよ。ここから見える夜景も素晴らしいじゃろう。富士山の次に大きい足若丸山が目の前に聳えておる。あの山を気に入っているから、家が遠くても遠出してしまうのじゃ。そのせいか弟子たちにも迷惑かけておる」


 なんと、この老人には弟子がいるそうだ。おおかた将棋や囲碁の弟子だと思うが、それ以上深くは聞こうとはしなかった。完全にプライバシーに関わるので、そういう質問はなるべくしないようにしている。特にさっき出会ったばかりの人に追及をしていくのはあまり好きでは無い。故に旺伝は話題を変えながら声をかけていた。


「俺、この温泉宿を利用するのは初めてなんだよな。あんたは何年ぐらい通ってるんだ?」


 旺伝が首を捻りながら質問すると、老人も同じように首を捻っていた。


「そうじゃな……ワシはかれこれ70年は此処に通っておるな。苦労人時代は先代の女将に良くお世話になって無料で飯を奢ってもらっていた。あの時の感動は忘れられないよ。パチ屋で金を使い込み、途方に暮れていたワシに御馳走を振る舞ってくれたのは……本当に嬉しかったぞい。まあ御馳走と言っても、味噌汁と白御飯、それに偶然余ったホゴの煮つけだったんじゃが、あの美味さは今でも忘れられないのお」


 老人はそうだと言うのだった。パチンコで金を失くして困っていた時、偶然にも女将さんから御飯を振る舞ってもらったのだと。



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