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長い沈黙の末、ついに旺伝は情報を手に入れた。と言っても、江戸の浮世絵の1つに悪魔と思しき人物が描かれていただけだが、その人物には見覚えがった。漆黒の羽根を身に着け大空を羽ばたく姿はクロウと良く似ている。人間の形でカラスの羽根を生やしているのは滅多にいない。それは悪魔であるとしか言いようがない。この世界には悪魔以外にも不思議な生命体は数多くいるので、江戸時代から悪魔の存在が確認出来ても不思議では無かった。
「悪魔の手がかりを見つけたぞ。この浮世絵画家は一体何者なんだ?」
そう思って作者の名前を見ると、旺伝はびっくら仰天して椅子から転げ落ちそうになった。なんとそこには十文字左衛太朗と書かれていたのだ。左衛太朗と言えば、ここ足若丸魔法学校の理事長である。ここを学園都市に発展させたビッグネームだ。彼は不死の細胞を宿して決して寿命では死なないと言われている。しかしだからと言って江戸時代から生き続けていたとは想像もつかなかったのだ。それが理由で吃驚していると、ハリティーが本を覗き込んで浮世絵をジッと見ていた。
「この絵に悪魔のヒントが描かれているのか?」
「そりゃそうだが、それよりも驚きの事実があった。この絵を描いたのは十文字左衛太朗。この足若丸魔法学校のオーナーだよ。俺みたいな一般人には到底辿り着けないビッグネームだ」
旺伝はそう言って落ち込んでいたが、何故かハリティーは笑顔を浮かべていた。鼻孔を膨らませて「ふふん」と鼻息を出して笑っているのだ。その何故か余裕な表情に腹立たしを覚えてしまう。
「何言ってんのよ。ビッグネームならビッグネームで対抗すればいいじゃない。うちの社長はああ見えても世界的な有名人なのよ。有名力で言えば、この学校の理事長さえも凌駕しているわ!」
ハリティーの言葉にしばらく口を開けてポカンとしていた旺伝だが、次第に彼女が言わんとする言葉の意味が分かり、納得の笑みに表情が変わっていた。さすがは某有名大学を若くして卒業しただけあって、考え方も鋭いと感心させられた。
「そ、そうか。奴もビッグネームだったな。あまりにも身近な存在だったから忘れてたぜ。あいつにアポを取ってもらえばいいんだな」
ハリティーの言葉に希望を貰った旺伝はさっそくラストラッシュに電話をかけていた。ラストラッシュは世界的有名企業の会長であり、暗殺ギルドの支部長としての地位もある。二つの顔を公式的に持っている奴に頼るのが一番だと旺伝は意気込んでいた。




