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足若丸魔法学校の逸話は恐ろしい物があった。昔からあそこには悪い噂しか存在していないので、絶対に弟には進学して欲しくないと思っていた。しかし、あの学校を好成績で卒業したものにはエリートの道が開かれると言われている。それさえも不気味に感じるのだ。きっと何か裏があって、企業とパイプが繋がっているのではないかと旺伝は考えていた。あそこに入学した魔法使いはそれなりの待遇を受けられる。学園内に歳が広がっているぐらいなので、それ相応のデメリットも存在している筈だ。あそこは私立の学校なのに学費もかなり安い。それで学園内に何もかも完備されているのだから裏があるとしか思えない。旺伝は目の前に聳える足若丸の校舎を見ながら、溜め息を零していた。そして隣に座っているハリティーに話しかけていた。
「あの学校に良い噂は無い。お前もそう感じているだろう?」
「そうじゃないけど……ね。良い謳い文句が多くて信用に値しないのは分かるよ。だって自衛隊のスカウトみたいな事ばかり言ってるからね。イジメは無いとか、国家公務員の資格を得られるとか、高収入が待っているとか、ポジティブなイメージしか言わずに誘っているのよね。そこはちょっと、あたしも納得しないけど。普通はネガティブなイメージも伝えるのに、それをしないのは怪しいと言えば怪しいわね。そう考えると」
ハリティーの言葉は正しかった。あの学校はまるで自衛隊のような好待遇が待っているのだ。しかし、自衛隊にイジメが存在しないなど杞憂に過ぎない。実際はスパルタ上官の集まりばかりで、あそこで一般常識など通用しない。イジメが存在しないと言っているのは自衛官候補を獲得するための言い分に過ぎないのだから。あそこは一般企業とは違い、平気で上官による暴力が存在し、それさえも無かった事として末梢される異様な世界だ。ほとんどの人間が、入隊に乗り気じゃないのも納得出来る。
「確かに自衛隊に似たダークな雰囲気を醸し出いているな。俺には中学生の弟がいるんだが、あの学校には入学して欲しくないと思っている。確かにあの学校を卒業さえすればエリートの道が待っているかもしれない。しかしだからと言って、必ずしもエリートになる必要は無いと俺は思っている。信用を勝ち取るために学歴など必要は無い。必要なのは自分の手腕だけだと、俺は信じている」
旺伝はそう言いながら、ベンチから立ち上がっていた。なにはともあれ、あの学校の敷地に入らざる終えない状況なので、前に進むしかなかった。




