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ひょんなことから、ラストラッシュの秘書として働くことになった旺伝は雑務を押し付けられていた。社長室の清掃、窓ふき、おまけに肩もみときた。
「うーん、そこが気持ちいです」
ラストラッシュは呑気だ。何が忙しいのだと思う程、社長椅子に偉そうに座って小説を読んでいるのだ。しかも、秘書に肩もみをさせて。
「うがあ!」
さすがの旺伝も痺れを切らしたのか、ラストラッシュの肩を思いっきりつねってやった。すると、目の前の男は険しい表情でこちらを睨んできたと思うと、不意に笑顔になったのだ。
「ハハッ、正直で結構です」
「こんなクソみたいな仕事、いつまでもやってられん」
旺伝はそう言うのだった。額に汗をかいて。
「あら、秘書は身の回りの雑務を代わりにしてもらう仕事ですよ。これで借金返済になるのですから楽でしょう。ねえ?」
「俺はこうやって媚を売ってる真似をするのは嫌いなんだよ」
「へえ、玖雅君は媚を売るのが嫌いなのですか?」
と、ラストラッシュが尋ねてくる。
「当たり前だ。媚を売る人生の何が楽しい?」
「良い心構えですね。私も媚を売ってくる人間は大がつくほど嫌いです」
こういう部分で、二人の気はあっていた。と言っても、旺伝はラストラッシュの事が気に食わないのだが、ラストラッシュが旺伝の事を好いているので困ったものだ。
「ああ、媚を売る人生はナンセンスだ」
「媚を売って出世した者にはロクな人がいません。そう言う者が真っ先に組織を駄目にしてしまうのですから」
「そうだ。大した実力の無い奴が出世して偉くなってよ。実力のある奴が便利屋として窓際に追いやられるのが、会社の実態だよ」
所謂、仕事のできない上司だ。奴等のほとんどは媚を売って出世しただけの名ばかり上司である。そういう姦雄な輩を旺伝とラストラッシュは許せないのだ。
「本当に仕事のできる人物が上司になるべきですからね。本来は」
「だが、媚を売って出世する奴は何時の時代にもいるからな」
「そう、彼等は家を蝕む害虫です。早々に見つけ出して駆除しなければいけません」
そこまでの存在なのだ。媚を売って出世した名ばかり上司というのは。
「絶滅して欲しいぜ。この世からな」
「激しく同意しますよ。やはりそういう輩は目つきも悪く、人相も悪いです」
ラストラッシュも大きく首を縦に振っていた。
「もしや顔に出ているのか。邪悪な性格が?」
「はい。一目見れば分かりますよ。どんなに顔を作ってヘコヘコと頭を下げてこようが、一瞬だけ元の自分に戻るのです。その時の顔が心底憎むべき顔つきならば」
やはりラストラッシュは社長なことだけあって、人事には五月蠅い。優秀な会社員を確保するためには、寄生虫のように会社を蝕んでいる輩を見つけて、駆除しなければならない。そうしないと優秀な新卒を獲得するための席が空かないのだ。
「お前の会社に、そういう奴はいるのか?」
「いません。私が一人残らず退治しましたから」
そう言われると、奴の笑顔が怖く見える。この男は、己の快楽のためならば人殺しもするのだ。だから、もしかすると……。
「まさか、殺したのか?」
「いいえ。そんな生ぬるい事はしませんよ。ただ、売っただけです」
殺しが生ぬるいというのだ。
「外国の人肉売り場か!」
実際に、そういう場所はいくつもある。日本にはないが、外国では人の部位が高値で売れるので、裏社会ではかなり賑わっている。
「発展途上国の医療現場では臓器やら眼球やらが、どうしてもたりなくなりますからね。最期ぐらいは人のために死んでもらわないと困ります」
実に恐ろしいことを、この男は平然と語っていた。
「最期ぐらいか……確かにその通りかもしれないな」
日本円で、傷のない眼球は300万円のレートで取り引きをされている。臓器は500万円ほどだ。
「ま、本当に死んだかどうかは分かりませんが」
「どういうことだ?」
「私は怖いお兄さんに売っただけですからね。その後どうなったかは想像に過ぎません。そのまま怖いお兄さんの仲間になったのかもしれませんし」
そう、ラストラッシュはただ売っただけなのだ。
「どちらにしろ、会社の金を貪る亡者は切り捨てられるべきだ」
「その通りです」
やはり、この二人はどうしても気が合ってしまうようだった。




