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「そんなお前に悪い知らせがある。俺は童貞ボーイじゃない」
「ゲッ。そ、それじゃ包茎なんでしょ。あたしには分かるわよ。あんたみたいな初心な男がズル剥けだなんてありえないわ。それこそ天と地がひっくり返る程の事件よ」
ハリティーの言っている事はあながち間違いでは無い。旺伝は通常状態は皮を被っていて、いざ戦闘モードに突入すると鋭い先端の槍が飛び出す。それだけに否定をしようと思っても否定は出来ない。そこで曖昧な返事しか返せないと思った旺伝は話題を変える事にした。白昼堂々、幼女とY談を交わすのは理に反しているのも原因だ。中途半端な内容になるぐらいだったら諦めて会話の内容を変えるのが会話を長く続けるコツであるとも旺伝は思っていた。
「この際、俺が包茎だろうが包茎じゃなかろうとどっちでもいいさ。今重要なのは悪魔に関する手がかりと資料だ。悪魔を捕まえて研究するのは非人道的だと分かった以上、好き勝手に暴れ回る訳にはいかん。どうにか文献を見つけ出さないと」
顔面の汗をハンカチで拭い、旺伝は必死な表情を浮かべていた。今までロクな目に遭わず敗戦濃厚だったから苦い思い出も蘇ってくる。それに歩く度に足若丸魔法学校の校舎が見えてくるので呼吸も荒くなる。あそこでは苦痛しか味わっていないので動悸に似た症状にならざる終えない。ようするに過去がフラッシュバックして前向きな精神が削り取られそうなのだ。それを察したのか、ハリティーは顔を覗かせた後、小首を傾げていた。
「そういえばあんた、さっきから変な汗かきっぱなしじゃない。何処か体調でも悪いのなら休憩しましょうよ。疲れたまま歩き続けるなんて体調に良くないって誰でも分かるじゃない。17歳の童貞ボーイが大人の真似事なんてしなくていいのよ」
「……だから童貞ボーイじゃないってば。ったく、お前以上のナンセンスの塊には未だ遭遇した覚えは無いぞ。分からず屋なのもいい加減してくれよ。俺は精神的に疲れているだけで体力はまだ有り余っている。若い人間が精神が疲れたぐらいで休んでどうする。今は肉体でカバー出来るんだからおんぶに抱っこでいいじゃねーか」
体力で精神を補えるのは若い内だと知っているだけに、それを取り入れようとするのは何の問題では無い。せっかく体力があるのだから利用しない手は無いのだ。しかし、ハリティーは何故か休めと言ってくるので何かしらの理由はありそうだった。
「そんなのは、ダメよダメダメ。精神の疲れを癒すためには休憩と活動を交互に繰り返す必要があるんだから言う通りにしなさい!」
するとハリティーは目的地まで後一歩の所で、ベンチに座り始めたではないか。これには旺伝も勘弁してくれと思うしかなかった。




