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旺伝が目指している王立図書館は西日本最大級の蔵書を誇っていた。そこに世界のみならず、魔法界からも本を仕入れているのでインターネットよりも手軽に知識を得られると話題になっていた。魔法界のインターネットには此方の世界からアクセス不可能なのでどうしても本場の知識となると書物に頼らざる終えない。それに魔法界の方が此方側の文明よりも遥かに優れているので、知識を蓄えるには彼らの本を使わざる終えない。それに悪魔の文献が存在している可能性も否定出来ないので、旺伝とハリティーの二人は王立図書館に向かっていた。道先は厳しく、足取りも重くなる。それもその筈、旺伝にとっては苦渋を飲まされた場所に他ならないからだ。
目指している王立図書館は足若丸魔法学校の敷地内に存在している。あの学校は校舎と一部の区域以外は一般開放されているので関係者じゃなくても入れるのだ。かつて、あの学校でおかしな怪奇現象に巻き込まれて肝を冷やした経験があった。その光景が脳裏に焼き付いていて、歩いているだけでも汗が止まらない。尋常じゃない量の汗を顔から噴出して、一人だけ夏場を体験しているような感覚だった。そして、それを後ろで見ているハリティーはタダ事では無い様子で高飛車な声を発してきた。
「ちょっと玖雅っち、凄い量の汗だよ!」
「大きなお世話だ。余計な事を喋るな」
ハリティーの甲高い声は、今の弱っている旺伝にとって集中力をかき回す要因でしかならない。そんな事は百も承知だったがいざ耳元で彼女の声を聞いていると、集中力どころか全身の水分を抜き取られるような感覚に陥った。それは脱水症状に似ていて、季節外れの熱中症と言ったところか。旺伝は唸るような倦怠感と闘いながらも、なんとか脚を前に出して歩いていた。しかしハリティーが未だに先頭への未練に固執しているようで、タックルが止まらない。
「なによ。せっかくアタシが心配してあげたのに! あんたなんか誰も見ていない路地裏で野垂れ死にしなさいよ」
「そうだな。今の状況が続くのであれば、それがお似合いだ」
あながち、ハリティーの言葉に間違いは無かった。このままでは悪魔として身を滅ぼす可能性があったので、もしも悪魔の血が全身に廻るような事があれば野垂れ死にの選択肢もあるなとひそかに考えていたのだ。悪魔になって皆の迷惑になるぐらいなら、いっそ野垂れ死にした方がマシだと思える。どんな人間にもプライドがあるように、旺伝も悪魔になったまま生きようとするなど自分のプライドに反するのだ。




