195
それからなんやかんやありながら、無事に長期間のリフレッシュ休暇を頂いていた。期間は最短の一か月間に設定していた。この一ヶ月の間に悪魔の血を摘出する方法を探し出すのが当面の目標である。その目標をラストラッシュに説明した時、一人では大変だろうと助手を寄こしてきた。その助手はハリティーという名前のごく普通な少女だ。某有名大学を主席で卒業した天才少女のハリティーはその経歴を生かしてクライノート社に就職、見事成功者の道を歩んでいる。そんなエリート街道を進んでいる彼女を助手として貰っていいのかと旺伝は疑問に思ったが、ラストラッシュは快くイエスの返事をしていた。それに旺伝のメンタルを維持するためのメンタルトレーニングを兼任してくれるそうだ。こんなにありがたい事は無いと、旺伝は会社ビルから出た後に彼女に握手を求めていた。しかし彼女はそれを拒否して、プィッと横を向いたのだ。これには旺伝もカチンときて、彼女の頭を押さえつけて上空に持ち上げていた。彼女はとたんに両手両足をバタつかせて暴れ回っている。
「その手を放しなさい。この下等生物め!」
「おいおい。その横暴な態度で俺のメンタルトレーニングをしてくれるのかよ。こいつは随分と高飛車なメンタルになれそうだぜ」
「ざけんじゃないわよ! あたしのピチピチお肌に触れるなんて百万年速いわよ。こうなったらお仕置きしてあげるわ……覚悟なさい!」
しかし、彼女はとても小さいのでパンチやキックが旺伝に直撃する事は無かった。身長133センチの少女と身長191センチの青年。どちらに分があるかは明らかである。しかし彼女は何処かで見た事があると、旺伝は先程の怒りを忘れるほどの疑問を浮かべていた。彼女は外国人のようで真っ白な雪のような肌に金色の髪を生やしている。一瞬、ラストラッシュの子供かと錯覚したが肌の色が似ても似つかないのでソレもないようだ。では一体彼女は何者なのかと自問自答した時、過去の記憶が一瞬だけ垣間見えた。それは会議に行く途中の出来事だ。階段を駆け下がっている途中に一人の少女とぶつかった。その時に会議の原稿がバラバラに飛び散って慌てふためいて記憶が曖昧だった。なので旺伝は改めて彼女に問うていた。彼女自信の存在を。
「君と俺って、確か階段でぶつかり合わなかったか? 一ヶ月ぐらい前だったから記憶が曖昧だが俺はそんな気がする。それで君はどうだ? 俺と同じ記憶を持っているのか?」
記憶とは人によって感じ方と捉え方が違うので一概に同じだとは言いにくい。人からすればハッピーな記憶かもしれないが、また違う人からすれば苦い記憶なのは日常茶飯事だ。たとえばカップルと遊びに行った時、当然ながらプリクラを撮る時にカップルと自分は一定の距離を保っている。カップルはキスをしているのに対して、自分は堂々とカメラに向かってピースサインをしているだけ。カップルは楽しい記憶として残るかもしれないが、こちらとしては自分が非リア充なのを体感しただけの苦い記憶として残る。だからこそ、一概に同じ記憶だと認識するのは危ない。楽しい思い出には地雷が埋まっていたりするので過去の話しを持ち出す時は細心の注意が必要である。少なくとも旺伝はそう考えていた。




