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仕事をしている時に一番大切なのは締切を守る事だと旺伝は感じていた。締切さえ守っていれば仕事に遅れは生じないし、なおかつ締切効果があるから仕事は捗ると何度も感じていた。実際に締切に押されて「今日は頑張ろう」と思える瞬間が何度もあった。頑張ろうとするのは何も悪い事では無く、むしろ良い事である。それを感じていれば人間としてはやってはいけない行為をしないだろう。締切があるから頑張れると思って、素直に仕事をすれば御の字だ。少なくとも旺伝はそのように考えていた。しかし仕事ばかりやっていれば社会人の恐ろしさをより鮮明に感じてしまう。某有名な研究結果では社会人の平均的な自由時間は2時間弱とされている。1日は24時間もあるのに、その内の2時間ちょっとしか自由に使えない。それが社会人だと身を以って経験したので、やはりフリーの仕事が自分には合っていると確信していた。
トラックから見える山の風景を見ながら考え事をしていると、不意にラストラッシュが話しかけてきた。敵は何処から来るか分からないだけに言葉を唐突に掛けられると旺伝は驚いてしまう。しかし驚いたからと言って何も変わらないので、旺伝は素直にラストラッシュの言葉に耳を傾けていた。
「玖雅さん。これからどうするつもりですか? 職場復帰をするのも感情的に嫌だと思うでしょうし、ここは長期のリフレッシュ休暇をしてみては如何でしょう」
なんと正社員として2か月ちょっとしか働いていない自分に長期のリフレッシュ休暇を与えてくれるというのだ。普通は有給休暇を使えるのは長い間働いて会社に貢献している人物だけである。それなのにラストラッシュは有給休暇を使っても良いと言うのだ。有給休暇は何かと経営者に嫌われがちだが、ラストラッシュは特に何も感じていないようだ。それはあまりにも嬉しくて思わず感激しそうだった。なので旺伝は笑みを浮かべて、彼に話しかけるのだった。
「長期リフレッシュとは嬉しいな。これで思う存分、悪魔に関する情報を集められる。それで休みの期間はどれぐらいだ?」
重要なのはそこだった。長期リフレッシュと言っても、実際にどれぐらいの期間で休みが取れるのか問題はそこである。
「そうですね。最少だと一か月で最長は三ヵ月間休めますがどうしますか?」
なんと一か月以上も有給休暇が続くというのだ。これには社会人も悪くはないと一瞬思いそうになったが、旺伝は何とか気力を保って自分に言い聞かせた。フリーの仕事をすればもっと自由な時間は手に入るぞ、と。




