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なんとかベッドの下から這い上がった旺伝だが、目の前には驚くべき光景が広がっていた。なんとトラックが壁を突き破って侵入して来ているのだ。これにはいつも冷静な旺伝も驚きの声を上げざる終えない。ここまでの大胆な侵入方法は映画でしか見た事が無いからだ。そうして口をポカンと開けながら驚いていると運転席のドアが開いた。運転手は瓦礫の山をよじ登って、救いの手を差し伸べてきた。旺伝はその手に捕まって外へ出ると、眩しい光が差し込んだ。ずっと部屋の中にいたので久しぶりの太陽の光がまぶしくて仕方なかった。そして段々と眩しさに慣れてくると旺伝を救いだした人物が分かった。特徴的な金髪モヒカン頭で、眼鏡をかけていている。そんなインド人などこの世に一人しかいない。そうトリプルディー・ラストラッシュだ。どうやら旺伝を助けに遠路はるばるやってきてくれたようだ。旺伝も感激せざる終えない。
「ラストラッシュ……俺を助けに来てくれたのか」
「ええ勿論ですとも。部下の身が危険になっているのに放っておく上司はいませんよ」
こうして二人はトラックに乗り込んでエンジンを急発進していた。急がないとダニーボーイに脱出した事がバレテしまう。遅かれ早かれそうなうのは覚悟していたが、それでも気づかれるタイミングは遅い方が良いに決まっている。旺伝はバックミラーを使ってちまちまと後方確認をしていた。ところが、ダニーボーイが追ってくる気配はない。ホッと溜め息をついて辺りを見回していると、ここは山の中だった。ラストラッシュは木を薙ぎ倒しながらここまでトラックを運転してくれたようだ。しかし、こんな山奥の中に囚われているのをどうして分かったのかと疑問に思い、旺伝はそれを尋ねていた。
「どうして俺が此処に捕まっていると分かったんだ? トリックを教えてくれよ」
いつまでも疑問を頭の中に残しておくのはストレスを溜める原因でしかならない。そんなのは嫌に決まっているので、旺伝は改めてそれを問いただしていた。すると運転席に座っているラストラッシュはポケットの中からスマホを取り出していた。そのスマホは最新式で旺伝が企画したデザインのスマホだった。とにかくクライノート社は何でも自社開発すると知られているので、既にスマホすらも販売しているのだ。
「私と貴方のスマホは特別な絆で結ばれています。相手が今いる場所を特定できるシステムが完備されているのですよ」
「ようするにGPS機能か。それは盲点だった」
旺伝もまさかGPS機能がここで役立つとは思わなかった。いつも頼りにならない奴だと思っていたが、どうやらGPSは正常に機能してくれる優れものだったらしい。改めてその事を再認識した旺伝だった。
「その通りです。今もこうして平和に喋られるのはGPSがあってからこそですよ」
否定は出来なかった。少なくとも今は安心していられる。




