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電波が圏外だったとしても、旺伝は困らなかった。なぜならばまだ脱出できると信じているからだ。今まで信仰心があまりにも無さすぎただけで、こうして軟禁されている状態では神にお祈りをせざる終えない。この世界に神はいないが、天上界には神様がいるとされている。特別に神を信じている訳では無いので、とにかく神様全員にお祈りを捧げる程の充実っぷりだ。ここまでのよくばりさんは神様も今頃吃驚しているだろう。シャワーを浴び終えてベッドの上で座っている旺伝は両手を重ねて神への祈りをしている。ここまでして祈るのだから絶対に神様は答えてくれるだろうと確信していた。無神論者でさえも、お腹が痛いときには神へお祈りして『助けてください』と祈るものだ。その状態にかなり近い状態だった。ただでさえ悪魔の血が体中に進行しているのだから余命が後幾何残されているのか分からない。そんな追い込まれた状態だと腹痛以上の精神的ダメージを負っている。しかし旺伝はそれを動じずに、むしろポジティブに思えるようになった。今まで後ろ向きばかりに考えていたにも関わらず、こうした軟禁状態になると劇的に前向きになれる。その結果に旺伝は満足をしていた。だからと言って、いつまでもこの部屋の中に閉じこもっている訳にはいかなかった。常に前向きに考えてこの場所から脱出する方法を考える。その結果、この部屋から脱出する方法が見つからずに神への祈りを捧げる手段しかなくなった。
「頼むぜ神様。俺はこんな場所で死に絶えるつもりは無いからな」
目を瞑り、ひたすら神への祈りをしながら救済を求めている。その姿はまさに熱狂的な信者そのものである。今まで神様を重要視した事など無かったが、こうして献身的な態度をしていると自分は今まで幸せな人生を過ごしていたのだと思わされる。社会人として理不尽な目に遭い、どんなに罵倒されてもそれは幸せな人生なのだ。死なない限りは、どんな傷でもかすり傷にしか過ぎない。こうして軟禁されている状態ではそれがよく分かった。しかも幸せそうに毎日笑って生きている人間のほとんどが、旺伝のように社会的待遇が悪かったりする。しかしそれにも動じに彼ら彼女らは生きているのだから目から鱗が落ちる。自分もそういう生き方をこれからはしたいと、自分の罪さえも懺悔するかのように祈っていた。
すると、神様への祈りが届いたのか突然爆発音が鳴り響いていた。あまりの衝撃に旺伝自身もベッドから身を放り投げて、ベッドの下に隠れる程だ。




