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旺伝は常に孤独を抱えていた。こうしてベッドの上に座って自分の無力を感じている時にもそれなりの孤独を感じてしまう。その理由はやはり、自分が弱いと知っているからだ。自分の心が弱いから、結局体も弱ってしまう。戦いに必要なのは技術と体力だと
思われそうだが、本当に大切なのは心の部分だ。もしも心が諦めを覚えてしまえば、その時点で戦いの意志は無くなってしまう。しかしそれだけは勘弁しないといけないので、旺伝は何とか皆と一緒のように全てを幸福に感じられるような存在になりなといつも願っていた。歴史上の人物にたとえるとガンジーだ。ガンジーのように全てを受け入れるような器を持ちたいと常々考えている。とはいっても、彼の考え方そのものには共感出来ないので、彼の度量を羨ましく思っていた。あそこまで自分の意志を統一して、信念を強く抱いている人間など見覚えが無かった。教科書で彼の存在を知った時には「こんなにも意志の強い人物が過去にはいたのか」と素直に感心した程だ。なので旺伝は歴史上の人物の中で誰が一番好きかと聞かれると、決まってガンジーの名前を出す。本当に好きなのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。しかしガンジーと答えると当たり前のように反応は薄くなる。普通の若者はどうやら武田信玄や織田信長などのベターな武将を答える。この理由は『好きな人物は誰ですか?』と聞かれた時にイチローと答えるぐらいベタな質問と回答だからだ。あらかじめ答えが決まっている質問なのに、それを捻じ曲げるような回答を旺伝はしてしまっている。とは言っても、本当にガンジーを好きでいるのだから放っておいて欲しいと思っていた。
こうして無音の部屋に閉じこもっていると、妄想するぐらいしか暇つぶしが無い。元々、この部屋には何も家具やら遊び道具やらが置いていない。あるのは必要最低限の物だけだ。トイレやら風呂やら洗面台やらは存在している。しかし、遊ぶ道具は一切用意されていないので、それなりの苦痛は感じていた。軟禁されるのであればもっと面白い玩具なりテレビなりを置いて、軟禁対象者を喜ばせるような物を置いておかなければならない。その点で言えば、ダニーボーイは軟禁のスペシャリストとは程遠かった。これでは軟禁の素人である。そこも旺伝にとっては不満の材料になり得ていた。本当に自分を軟禁したいのであれば、テレビの一つでも容易すべきなのに、それすらも無いのだ。これではストレスがたまるのも無理はなかった。




