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戦いから身を離れるのはすなわち、旺伝にとっては死を意味している。悪魔の血を消滅させるために旺伝は今まで死闘を繰り広げてきたのだから、戦いを放棄してしまうのは一番やってはいけない事だった。人間として純粋に生きるためにも、悪魔の魂を完全に消滅させる必要がある。そうじゃないと、これまで以上に精神的苦痛を感じる羽目になるのは目に見えている。今までに旺伝は神経症や鬱病、パニック障害に悩まされてきたが、それらが悪化してとんでもない結末になるかもしれない。それだけ人間の体に悪魔の魂を宿わせるのは危険な行為なのだ。よって、一刻も早く純粋な人間に戻れるように戦いをしなくてはならない。悪魔を倒すのではなく、悪魔を作りだした元凶を倒すのが、今の旺伝の流儀だった。なのでこの部屋から一刻も早く出る必要があった。ところがダニーボーイは首を横に振り続けている。ここまで頑なに拒否をされてしまうのは内心嫌だった。だからこそ、言葉を交わして解決策を考える必要性があった。
「ダニーボーイ。頼むからそこをどいてくれないか?」
「それは不可能な相談だ。君はこれ以上、体と心を傷つける必要は無い。命の灯が尽きるまでこの部屋に住んでもらう」
それはすなわち、悪魔の血を治す手段を完全に捨てさるのを意味している。こんな馬鹿げた提案は今までに体験した覚えが無い。社会人として正社員労働をしてきた時には理不尽な頼み事や、意味不明な罵倒をされてきたが、ハッキリと言ってダニーボーイの提案はそれら以上の恐怖感があった。この場所に魂が燃え尽きるまで軟禁状態にされるのは真っ平ごめんである。せっかく小さな希望の光が見えてきてのに、そんな仕打ちをされるのであれば戦いで死んだ方がマシだ。少なくとも旺伝はそのように考えていた。
「人間は日の光に浴びないとセロトニンが減少してしまう。それぐらいお前にも分かっているだろう? 軟禁生活がどれだけ精神に異常をきたすかぐらい!」
まさしくその通りだった。セロトニンを生み出さなければ行動力が萎んでしまい、最悪の場合は生きる屍と化してしまう。そんなの真っ平ごめんである。




