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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯1 山羊頭の男
18/221

018


 三人は花火を満喫していた。その中でもやはり盛り上がるのは吹き出し花火の威力だろう。ブシュウウウという音を立てて火花を散らしているのだ。暗闇の中で照らし出される花火の閃光は我々を魅了してやまない。


「うわああ、凄いですうう」


 友奈は口を大きく開口させて両目を輝かせていた。やはり年に一回や二回しか見ないので感動とありがたみが増す。


「そうですね。ちょっと熱いですが」


 花火の熱さが手元まで昇ってくる。それが熱くてたまらない。


「やっぱり花火はこうでなくちゃな」


「はい。童心に帰ったようですよ」


 そこまでだというのだ。この花火は。


「なんだよ。子供の時にもやったことがあるのか」


 旺伝はそう尋ねた。


「何度かありますね。店の商品を頂戴して友達と一緒に楽しみました」


「ちょい待て。御前、子供の頃から盗人だったのかよ」


「勿論です。子供の頃に培ったスキルを大人になった今でも生かしているのですからね。子供の時に習得した技術は大人になってからの方が役にたったりしますから。高校生が何のために資格勉強しているのか分からないときがあるでしょう。そういう感じですよ。大人になってからの方が資格スキル大切さを身に染みて感じたりしますからね。……と言っても、私は子供の頃からスキルを有効に使っていましたから、その辺りの幸福感はやはりありましたね。法で縛れた中でする盗みのスリルと興奮は中毒的ですよ。もっとも法の無い地域では、盗みは人殺しへと一段階アップしますがね。人を狩る愉悦感は……たまらない」


「お前は生まれた時から犯罪者なんだな」


 ラストラッシュの話しを聞いて、旺伝はそう答えた。


「勿論です。私は悪党ですよ。正真正銘の」


 自分が悪人であることは自覚しているようだ。この男は。


「俺としたことが、少し感覚が麻痺していたぜ」


 無論、二人は吹き出し花火で遊びながらこう言った会話をしているので、他から見れば冗談にしか思えない。ところが、この二人は本気で喋っていたのだった。


「思えば、私に銃口を向けて生きているのは五本の指程度でしょうか」


「俺がその内の一人だと言うのか」


 二人は互いの顔を見合わせた。すると、ラストラッシュは不意に笑顔で語りかけてきた。


「はい。良かったですね。非殺傷能力の麻酔銃で」


 一瞬、ラストラッシュの笑顔が不気味に思えてしまった。


「勘弁してくれ。あの時の事は思い出したくない」


「あら、恐怖感を植え付けてしまいましたか?」


「違う。お前が家から出て行った後、急に腹を壊して下痢になったんだよ。あの時を思い出すだけで、もう色々とナンセンスだ」


 そう、ナンセンスだと言うのだ。下痢は。


「下痢ですか。それは申し訳の無い事をしてしまいました」


 ラストラッシュは深深く最敬礼をした。


「大丈夫だ。もう過去の事だから水に流そう」


「上手いですね。下痢にかけたのですか?」


「違う違う、たまたまだ!」


 旺伝の顔は赤くなっていた。何の意識も無く上手いことを言ってしまった時はどうにも恥ずかしくて仕方ないのだ。


「ところで、友奈ちゃんは?」


「あそこで踊ってる」


 そうなのだ。友奈は吹き上げ花火を片手で振りながら、右に左に踊っているのだ。もしこれが映像化しているならば、下に『※良い子は真似しちゃいけません』とテロップで書かれるぐらいに激しくだ。


「あれは危ないですね」


「おーい! 花火持ったまま踊るのはやめろ」


「あ、ごめんね。つい張り切っちゃって」


 友奈は踊りをやめると笑いながら此方に近づいてきて、残った花火の中から線香花火を取り出して、先程の激しい踊りとは一変して、静かに、そして穏やかに線香花火の良さを味わっていた。


「風流ですね」


「そうだな。この音に癒される」


「どうやら、私の心の中の悪も浄化されているようです」


 トリプルディー・ラストラッシュのまるで、タコの墨のように真っ黒な心がだ。どう考えても浄化されないだろう。


「まったくだ。俺も十七歳になって漸く線香花火の良さに気が付いたぜ」


 そう、この癒しは線香花火にしかないものだ。他のけたたましく、過激な花火とは違い、夏本来の静けさを体感させてくれる花火だったのだ。



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