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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 全力など出せなかった。常日頃から弱い自分と向き合う時間が長いので、旺伝は基本的にスロースターターだ。特に朝起きたいとは中々思えない。これから絶望の毎日が始まるのだと思った瞬間から布団が恋しくなる。まるで布団が恋人のようなのだ。それもその筈である。本来、心を温めてくれる存在が恋人なので布団はその代理人だ。その代理人に恋心を抱くのは当たり前だった。しかしやはり人肌に勝てる魅力は存在しない。特に大切な人の体温に触れると、ものすごいリラックス効果を得られる。悪魔の血が流れている旺伝にとっては、最近人肌の大切さを重んじるようになっていた。こう見えても昔から女遊びが激しかったので、人肌の大切さはそれなりに理解していた。そうして体を密着させている時が一番落ち着くのだと。だから行為が終わった後、布団をかけずに寝てしまう人間が多い。体を密着させているだけで布団以上の温もりを感じるからだ。これまた随分と御無沙汰になっているので、久しぶりに女の子と密着したいと心弾ませる旺伝だった。しかし、そんな呑気な事を言ってられない雰囲気になっていた。改心を果たしたダニーボーイが自分を軟禁しているのだ。ここに閉じこもっていれば少なくとも安全だと。それは確かに安心かもしれないが、それとこれとは話しが別である。こんな場所で軟禁された状態では話しにならない。人間何が大事かと言えば自由だ。軟禁されるのはその意志に反するので、ダニーボーイには悪いが断るつもりだ。


「悪いが俺はこんな場所で余生を過ごすつもりは毛頭ない」


「何故だ?」


「ナンセンスだろう。自由を奪われたにんげんは」


 それが旺伝の言い分だった。人間も鳥のように空を自由に飛び周る権利はあると。確かにその意見は正しい。人間も昔は野生の動物だったのだから、自由意志の元に行動するのが一番物事を解決しやすい。無論、法律を犯さないのが絶対条件であるが、とにかく自由を愛する気持ちは間違ってはいない。ところが、そう伝えてもダニーボーイは首を横に振っていた。どうやらどうしても旺伝を外に出したくないようだ。


「戦闘中行方不明にすれば雇い主も納得するだろう。それに今まで文句を言い続けてきた会社員の仕事もしなくて済む」


 それはありがたかった。会社員として働くにはもう体力と精神の限界だったからだ。しかしだからと言って軟禁される理由にはならない。あくまでも自由が大切だと言っているのに、それを奪われるのであれば言語道断である。次第に旺伝は目に見えて不機嫌になっていき、更なる会話を望んでいた。なぜならば両者の間に空いている溝は会話でしか埋まらないからだ。ちょっとした相談をするだけでも大分違ってくると、今までの人生体験で思い知らされたのだ。


「人間に何が重要かと聞かれれば、それは自由だろう。隷属しているようじゃ本当に満足出来ない。人を突き動かす動力源は常に満足感だ。それを見たさない限り、俺達に本当の幸せは訪れないぞ。ダニーボーイ」


 旺伝は彼に言い聞かせるように、ゆっくりとした深い声を使っていた。



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