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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 旺伝は現在進行形で暇を持て余していた。普通ならば目を覚ました時点で誰かが迎えにきそうだがその気配さえも無い。ただ、退屈な時間が流れているだけだ。しかし、この退屈で仕方ない時間が旺伝にとってはかなり久しぶりだった。いつも時間に追われるような人生だったのに、ここにきて無音が続いている。旺伝は常にキーボードの音が響いている部屋で過ごすばかりだったのに、この部屋には何も聞こえない。それが旺伝にとってどれだけ心地よいかは言うまでもない。常に忙しくて時間を追っているような人間に一番必要なのは無音の世界だ。何も聞こえない静寂に包まれた部屋の中で、時間を潰す。時間の大切さを知っているからこそ暇を体験するのは後ろめたさと同時に幸福感も感じていた。そもそも暇とは何かと考えた時に、暇の存在価値を始めて実感する。普段忙しいからこそ味わえる特権であり、ニートと呼ばれる人間や社会不適合者には到底味わえない快楽だった。これは学業なり仕事なりを真面目に頑張っている人間にのみ与えられる極上の気持ちだ。どんなに優れた音楽よりも無音の方がよっぽど心を癒してくれるのは火を見るより明らかだ。その無音の中で瞑想をするのが本当に健康に良いので、旺伝は自然と床の上に座って目を瞑って瞑想を始めていた。生まれてから気分を落ち着かせて瞑想をするなど初めての体験だったが、ほとんど無意識の内に行動していた。昔から真面目とは無縁の旺伝だった。しかし、ここにきて正社員として生活を過ごしていく内に自然と真面目な気持ちに心変わりしてしまった。以前のような女遊びにうつつを抜かして時間を無駄に潰すような人間では無くなった。それだけでも十分収穫があったので、とっとと借金を返済したい気持ちへと変わっていた。人間として素直に尊敬出来るのは今持っている自分の仕事に真面目に取り組める人間だ。そういうグル-プに属せてとても満足はしていたが、それとこれとは話が違う。どんなに真面目になったとしても正社員として地獄のような日常を過ごすのは嫌に決まっている。その原因は学校で『会社員は安定しているから就職しなさい』と多くの人間に洗脳が行われているからだ。正社員に就職したからと言って安定するなど絶対にありえないのに、頑なに就職しろと言い続けて人の夢を潰すような人間ばかりなのだ。此の世の中は。人の夢を潰してまで良い学校に通わせて、良い企業に就職させようとする薄情な人間が多すぎる。たとえお金が無くても夢を叶えてそれなりの生活が出来ればそれでいい筈だ。それなのに人間の価値は収入で決まるとか訳の分からない事を言い始める人間が出てきてしまった。それだけ金は重要性が高いのかもしれないが、金なんか無くても幸せになれるのは歴史が証明している筈だ。それなのに口を酸っぱくして『金を稼げ』と言われるのは心外である。


 そんな事を考えながら、旺伝は無音の素晴らしさを肌で感じていた。しかもベッド以外の物が置かれていないので圧迫感も無い。部屋の中にいるのに、まるで広大な大地に寝そべっているような感覚になっているのだ。こうなってくると幸せを増幅させるセロトニンは大爆発を起こしていた。こんなに前向きに物事を考えられるのは久しぶりで、もうテンションが上がっているとかそういう次元では無い。まるで自分が超人類になったかのような鼓動の昂ぶりなのだ。それぐらい、多忙と無音のタッグは凄まじい威力を発揮する訳だ。それを再確認できた旺伝は満足感を感じていた。ここでなら自分の一生を終えてもいいかもしれない。そこまで思えるようになっていたからである。



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