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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 旺伝の決めた答えは至極簡単だった。それは自分の身を雇い主に差し出す決断である。さすがに現時点で心が病んでいる旺伝でも人間としての感覚はまだ残っていたのだ。無抵抗な悪魔を無理矢理捕獲して、研究材料にするのは人道に反していると。元々彼らも東日本の悪夢のような現状から抜け出したくてこちらの領土に侵入せざる終えなかったのだろう。そんな可哀想な相手に、更に悲劇を与えるのは得策では無かった。それに目の前で子供に泣かれては困ってしまう。だからこそ旺伝はこの身を差し出すと決意していたのだ。その事をダニーボーイに伝えると、彼はいつの間にか攻撃を止めていた。そしてローンレンジャーに声をかけているではないか。


「潔く警察に出頭しろ。そうすれば命だけは勘弁してやる」


 ダニーボーイはそう言っていたのだが、向こうは首を大きく横に振っていた。どうやら出頭する気は毛頭ないようだ。その理由はよく分かっていないが、恐らく金を返したくないのだろう。あれだけ大胆に銀行強盗したのはすなわち自分の正体が悪魔だとバレテも生かし方ないと判断したようだ。


「そうもいかない。せっかく金を手に入れたのだから自首する前に使わせてもらうよ。それじゃ僕はこれで……」


 捨て台詞を残していったと思うと、ローンレンジャーは何処かへ去って行った。子供達は心配した様子で彼の姿を見つめていたが追いかけはしなかった。きっと彼の姿からあふれ出ている哀愁が子供達の行動を制止させたのだろう。少なくとも旺伝はそうだと理解していた。しかし物事は理解したように思えても実際に理解しているとは限らない。恐らくローンレンジャーには何かしらの不安を抱えているのだろう。その不安を解決するために歩を進めているのではないかと、旺伝なりの解釈をしていた。そんな事を考えていると、ダニーボーイは電話をかけていた。大よその検討はついていた。雇い主に報告するのだろうと。なので旺伝は変身を解かずに山羊頭の悪魔の状態でボーっとしていたのだが、電話を切ったダニーボーイに「早く変身を解け」と言われてしまった。最初は訳が分からなかった。今から雇い主の元に連行される筈の自分が変身を解く理由などどこにも存在していないと思ったからである。だが、ダニーボーイの放った一言に驚愕をしてしまった。


「救急魔法使いを呼んだ。とびっきりの回復魔法を使える相手をな。だからそのままの状態だと悲鳴を上げられるぞ」


 なんとダニーボーイは救急魔法使いを呼んでいたのだ。てっきり自分の仕事を最優先に考えていると思っていただけに、これには驚きを隠せない。それと同時に、冷酷な性格を持っている彼にも少しは人間らしい部分は持っているようで安心をしていた。


「……なんだよ。てっきり雇い主に通報したかと思ったじゃねえか。どんな時でも仕事を最優先に考えるお前が、俺の症状を心配するなんてらしくないな。心変わりでもしたのか?」


 旺伝の疑問はもっともだった。今まで無愛想で人の心など持ってないと思われるダニーボーイが人間らしい行動をするのだから疑問に思っても仕方ない。てっきり奴はどんな状況でも仕事を最優先に行い、自分のような人間は虫けら扱いされてそれで終わりだと思っていたからだ。どうやらそれは誤りらしい。ダニーボーイがサングラスを外して此方に微笑んできた時に、それを確信していた。


「いいや、玖雅君の言う通りだと思っただけだ。誰にも悪魔を傷つける理由なんて無いってね。だから今回は君を必要以上にメスを入れる真似はさせないから安心したまえ。私が雇い主に説得をしよう。せめて優しく研究して下さいと」


 どちらにしろ雇い主の元に連行される未来は待っているようだ。しかしそれでも必要以上にキツイ実験はさせられないと約束してもらった。どんな内容の実験によるが、どうやらモルモットのように残忍な真似はされないらしい。それを喜んでいいのか絶望を感じればいいのか、それは分からないが生きる時間がまだ残されているのは確かである。



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