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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
174/221

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 人間のクズに相応しい末路を旺伝は知っている。だが、人間のクズを成敗する程の力など残されていないので旺伝はただ這いつくばっていた。まるで地面を蠢く芋64のようにだ。力が残されていないのに、そこまでして前進を続けようとするのは理由があった。それは子供達の声を聞いて気づいたからだ。英雄が誰なのかを。子供達にとって真の英雄は目の前にいるローンレンジャーであり、その姿がたとえ悪魔の形状をしていても子供達にとっては何の問題も無い。むしろダニーボーイが悪役に思えるのだろう。確かに今思えば悪魔が何をしたのだろうか。その悍ましい形状を理由に、人々は彼らを敵と認識し、捕獲や殺生に力を入れたきた。だが色々と考えていると彼らにも生きる権利はある筈だ。それを個人の勝手な理由で身柄を拘束してしまうのは最初から無理があったのかもしれない。世間は悪魔を敵と思っているようだが、純粋な子供達からしてみれば我々こそが悪魔の心を持っているようである。それを考えていると、旺伝は「止めなくてはいけない」と必死の形相でダニーボーイを睨み付けていた。真実を見つけたからには、ダニーボーイの行動を許せなかった。無論、今までの自分の行動にもだ。悪魔が大量殺人犯で捕えるべき存在ならまだ分かるが、銀行強盗をしただけで自由を奪うのはどうかしている。彼を捕まえる本来の役目は警察なのだから、警察に仕事を任せればよいのだ。旺伝は地面を這いながらその事ばかりを考えていた。そして子供達が時間を稼いでいる間に、旺伝は何とかダニーボーイの足元に近づき、そのまま脚を掴んでいた。


「ダニーボーイ。もう終わりにしないか、子供達がそう訴えているぞ」


 旺伝はそう語りかけていた。もう戦いは終わりにしようと。これ以上戦っていてはは何も生み出さないのは明らかであるからだ。しかも悪魔との戦いを積み重ねる作業は自分が悪魔へと変貌リスクを背負う事に等しい。そんな事を続けていると人間としてどうにかなってしまうかもしれないので、なるべくは悪魔に変身をしたくなかった。それに今の旺伝にはとある哲学がある。それは自分のために戦うのではなく、相手を思って戦うのだと。自分勝手に戦っていては余計なストレスが溜まると理解していた。これまでに何度も旺伝はストレスを嫌っていたからこそ、これ以上ストレスを溜めたくないと心底思っていた。神経症を患わっているのもそうだが、鬱病まで発生してしまっては元も子も無いからだ。それにこんな若い内からカウンセリングになど通っているのは親の面子に関わる。親は子供を通して自分の本性を語りだすクセのようなものがあるので、子供の面子よりも自分の面子を気にしている親がほとんどだ。しかし旺伝はまだ発生して間もない時期なのでカウンセリングの必要など無い。それに自分の人生は自分で切り開くのがベストだと思っているので、恐らく重度の精神病になってしまうリスクは低い筈だ。そんな事を考えながら必死に足元を掴んでいるとダニーボーイは珍しく表情を変えていた。いつも冷酷で無表情の彼が、歯を食いしばって何とも言えない表情を浮かべているのだ。そしてこう語りかけていた。


「この男を捕獲しなければもうチャンスは二度と訪れない。そうなった場合は君の体を雇い主に差し出す約束だ。その約束を守るのであれば攻撃をやめよう」


 子供6人と旺伝に制止させられているダニーボーイはまるで父親のようだ。そして旺伝はその父親を止める子供ではないか。差し詰めローンレンジャーは母親といったポジションか。しかし世間でよく言われる平和的な母親など稀なので、このポジションの振り分けは逆かもしれない。まあそれはさておき、旺伝が自ら体を差し出すのであれば攻撃を止めると言ってきたのは間違いない。


 そして旺伝の答えは既に決まっていた。せっかくここまでして制止したのだから最初から答えなど決まっているのだ。



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