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精神的苦痛を覚えながら、戦うのは容易じゃない。旺伝が片膝を着いてしまった原因はどうやら技術不足なだけではないようだ。明らかに寝不足とストレスが溜まった状態で自律神経が音を立てて崩れさり、鬱病を発生していた。最近は疲れがまったく取れない状態が続いていたので、かなり疲労感も溜まっている。これでは勝てる戦いも勝てなくなってしまう。今の旺伝はそれぐらい力を消費してしまっているので、もはや立つのもままならなかった。今までは自分が一度決めた事を絶対にやり通すと思っていたが、どうやらそれも難しいようだ。既に疲労困憊の状態なのは勿論だが、移動したくても移動出来ない。まるで老人のように足が棒になってしまっているのだ。人間は寝不足になるとどうしても眼精疲労を引き起こして、そこから頭痛を起こす。頭痛になると集中力が欠かれて千鳥足になる。そして結果的には長時間立つのが辛くなってしまうのだ。寝不足なだけで、ここまでの異常事態を発展させるのだから、やはり会社員と祓魔師の両立は難しそうだった。しかし、どんなに異常事態が起こったとしても人は決意の咆哮を上げる時が必ず訪れる。だからこそ、旺伝は諦めない気持ちを抱きながら必死の思いで立ち上がっていた。全てはあの時の償いのために。
「軽い軽い……発泡スチロールみたいなパンチだな」
旺伝は口では強がりをしているが、既に体は限界だった。普段通りの力を全く発揮出せないのは勿論だが、肉体的にも精神的にもかなり辛い状態が続いていた。これでは前向きに考えようと思う余裕すら無い。戦いの中で、いくら前向きに考えていても負けてしまえば意味が無いからだ。それは誰もがしっているのでとにかく万全の状態で体が動くようにしていないと、本当の戦いは出来ない。戦いには台本も無ければプロットも存在しない。全ては無から始まるのだから、そのつもりで戦いに挑まないと大変な事が起きてしまう。嫌、既に起きてしまっているのかもしれない。




