017
三人は商店街の花火専門店の前で談笑していた。
「さて、どこで花火をしましょうか」
ラストラッシュが話しかけてきた。
「そうだな。下手だが空き地とかどうだ?」
旺伝は空き地を提案した。
「空き地ですか。何処にあるのでしょうか」
「碩大第一小学校の近くに空き地があるぞ。ここから近い」
「いいですね。では、そこに行きましょうか」
「その前にだ。そろそろ起きてもらうか。友奈に」
「そうですね。それは私に任せてください」
すると、ラストラッシュは友奈の耳元に近づいて、こう囁いた。
「起きてください。花火の時間ですよ」
「ひゃなび!」
飛び起きたというべきだろうか。甲高い声を出して、顔を上げたのだ。ラストラッシュの低いボイスが、伝わったのだろう。
「やっと起きたか」
「あれ、ここは?」
どうやら本部の出来事を覚えていないらしい。辺りを見回して不思議がっていた。
「申し訳ございません。花火大会は中止になってしまいました」
平謝りするラストラッシュだ。
「え? なんでですか」
「実は……事故があったのです」
そう言ったのだった。
「事故ですか。それはダメですね」
「ですから、ここに用意したのです」
ラストラッシュは袋の中に入った家庭用花火を見せた。
「自分達でする花火ですか。いいですね」
友奈がはしゃいでいると、
「ちょっと、いい加減に降りてくれないか」
さすがの旺伝も腕が痺れてきた。17歳の少女を1時間近く背負っていたのだ。しかも歩きに歩いて。
「あ、ごめん。背負ってくれたの?」
「そうだよ。急に気絶しやがって」
本当の事は言えない。本部に怪人が襲ってきて、旺伝がそれを撃退したなど、とてもじゃないが口にすることは出来なかった。
「なんで、あたし気絶しちゃったんだろう」
可愛らしく小首を傾げていた。まるでリスのような小動物感に溢れている。
「さあな」
「私も存じ上げません」
ある意味、二人共空気を呼んでいた。
「うーん……まあいいか」
「そうだよ。それより花火しようぜ!」
「私もウズウズしています」
「うん、花火しようー!」
満面の笑みで、友奈は答えていた。
「それじゃ、行くか」
「目指すは空き地ですね」
「第一小学校の近くの空き地にレッツゴー」
■
辺りが暗闇に包まれている頃、三人は目的地に無事に辿り着いた。商店街からここまでは十分程度の時間だった。そして空き地の管理人に電話して花火をする許可を貰うと、三人達は一斉に花火の袋を開けた。
「うわあ、花火がいっぱいですう」
新鮮味溢れるリアクションで、友奈は目を輝かせていた。やはり、いくら年をとっても花火の楽しさは変わらないのだ。例えだが、たとえ初老が近づいていても、花火一つで子供のように盛り上がることも出来るのだ。
「これが手持ち花火って奴か」
「そのようですね。比較的スタンダードな花火です」
「どうやって火を点けます?」
二人は未成年なので、タバコに火を点ける道具などを持ち合わせている訳も無かった。自然と、二人はラストラッシュに顔を合わせていた。
「心配ご無用です。着火マンを使いましょう」
「ライターじゃなくてか」
「着火マンの方が雰囲気あるでしょう?」
「そうですね。私の花火に付けてください!」
ラストラッシュが花火の口に火を点けると、勢いよく火花が噴射し始めた。シュワアアアという音ともに、炸裂しているのだ。
「うお! 意外と強いな」
「そうですね。これは凄い」
こうして、空き地での小さな花火大会が始まったのだった。