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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 今となっては戦いが好きだと胸を張って言えなくなっていた。こうして拳を交えていて結局は何が生まれるのかと、疑問は絶えない。それはどちらかが地面に倒れるまで戦うのはかしこい選択とも言えないからだ。お世辞にもアタラクシアの境地に立っているとは言い難いが、しかしそれでも考え事は止まらない。本当は目の前に攻防に集中しなければいけないのだろうが、そうもいかない。ローンレンジャーの攻撃を躱す度にこうした思考は止まらなくなっていく。最終的には考え事をし過ぎて自分自身の四肢が溶けるのではないかと思ってしまう程の深い内容を抱いていた。だから防戦一方になっているのかもしれない。旺伝の心は既にネガティブに捕えられていて、ここから抜け出すのは難しい。なぜならば人間は後ろ向きになればなるほどネガティブな自分になってしまうからだ。特に朝起きたばかりの状態では、どうしても昨日の夜を引きずってしまって闇を抱えたままの場合が多々見受けられる。本当は希望の朝なのに、自分自身の考え方がそれを許してくれない。本当は前向きに考えようとしても将来の自分を脳裏に描いてしまう。悪魔の呪いは治らないんじゃないかと朝から悩むのはしょっちゅうだ。そして今日は悪魔と決闘を交える日にも関わらず、時間帯が苦手な朝だけあって、どうでもいい事ばかりが浮かんでしまう。闘っている最中にこうして面倒な思考を張り巡らせるのは得策では無い。どうしても隙が生まれてしまい、そこを敵に突かれる可能性だって出てしまうからだ。今のように。


「くっ!」


 ローンレンジャーの放った拳がまともに直撃した。しかも直撃した箇所は胸であり、あまりにも重い一撃に耐えられなくなった旺伝は片膝を地面に着いてしまった。これではまるで王様の命令を聞いている兵士のようだ。敵に対してこのようなポージングをしてしまうのは屈辱以外の何物でもなく、旺伝は山羊頭の仮面越しから奴を睨みつけていた。本来ならば旺伝の青い目は何者にも染まっていないのだが、ここまでくると悪魔に支配されそうになっていた。完全に悪魔と化せばこの戦いにも勝利する可能性もある。だがそうすれば人間として大切な部分を失ってしまうので、悪魔の血と人間の血が葛藤していた。先程から赤い目と青い目が点滅してしまっているのが自分でも良く分かっていた。傍から見れば信号機かと間違われそうだが、決してそうではない。これは悪魔と闘っている証拠だ。そんな旺伝を物珍しそうに見ている人物がいた。それは勿論、ローンレンジャーであり彼は余裕の表情を浮かべているのだ。


「どう考えても君は僕に勝てないでしょ。純粋な悪魔である僕が一歩も二歩も戦闘で上回っているのは火を見るより明らかだし、これ以上は肩が凝るだけで時間の無駄だ」


 なんと、旺伝との闘いのデメリットは肩が凝るだけだと言うのだ。さすがの旺伝もこれにはプライドを折られそうだったが、それ以上に自身の骨が折れそうだったのを思い出して、精神状態がどうこう言っている場合ではないと踏みとどまっていた。そう、いつの間にかネガティブな自分は何処かへ吹き飛んでいた。こうして命の危険にさらされた時は自動的に前を向こうとするのだ。人間は。



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