168
毎日同じ事の繰り返しだとマンネリを生み出すきっかけになりがちだが、日常にすこしの変化を生み出すだけでそのマンネリを払拭出来ると旺伝は信じている。しかしそれでも、この変化は異常を生み出すだけだった。まだ日常の中には悪魔が顔を覗く瞬間は訪れてはいないが、今のように自発的に悪魔の顔を表に出した時には疲れがマックスに達する。まだ悪魔に変身するのは慣れていないので、ひたすら疲れが出てしまう引き金になってしまう。しかしそれでも悪魔に変身せざる終えない瞬間は訪れる。今回のように。
「君と闘うのは面白くない。なぜならば僕自身は闘いになれていないからだ。相手と血みどろの闘いをして何が面白い? 痛みを生じるだけで快楽など感じさせられない筈だ。それなのに何故、君は僕に向かってくるのだ」
どうやらローンレンジャーは闘いになれていないらしい。しかしその言葉とは裏腹に悪魔に変身した旺伝をワンパンで吹き飛ばす程の力を持っている。ここまでの力を持っているのであれば、戦闘狂になってもおかしくはない。なのに闘うのが好きではないと言っているのだから凄まじい平和主義者だ。旺伝は闘いが好きとまではいかないが、生活費を稼ぐためには必要だと思っている。なので生きていくためには拳を交えるのが大切なのだ。ところがローンレンジャーはなるべくは闘わずに物事を進めたいと言っている。旺伝もなるべくはそうしたいところだが、生憎旺伝の目的はローンレンジャーを雇い主の元に連れて行く事だ。そんな要求を彼が素直に飲む筈も無いので、やはり力ずくで雇い主の元へ持っていくのが必要だった。
「お前を雇い主の元へと連れて行く必要がある。どうしてもだ」
旺伝は身勝手な行為だと分かっていた。自分の借金を返済するために悪魔を狩猟するのだからお世辞にも等価交換とは言い難い。しかしそれでもそうしない限りは張りのある人生を過ごせない。1分でも優れた時間を生きるためには一刻も早く悪魔を捕えて、研究をせざる終えない。雇い主は悪魔を研究して、旺伝の呪いを解くためにも生きた悪魔を連れてきて欲しいと懇願してきた。もしも狩猟を失敗した場合は自分が生きた研究材料になってしまう。それだけは勘弁して欲しかったから他人の自由を奪うのだから、神の冒涜に等しい。それを分かっていても絶対に連れて行く覚悟は出来ていた。なぜならば、もう会社員として縛られる生活を過ごしたくはないからだ。人間は面白くないと思っていても仕事を続けなければならない。しかし会社員の仕事は旺伝が率先してやっている訳ではないので、辞めたい気持ちの方が大部分に存在している。
「なんだい、その曖昧な答えは。雇い主とは一体何者なのかな? 僕に一体どう関係があるのか分からないね」
マッチョマンの黒人なのに僕という一人称は笑ってしまいそうだった。それぐらい違和感のある喋り方なのだ。無論、これも偏見の塊だ。旺伝は人間の汚い部分をいくつも所有しているので、偏見で物事を考えてしまうのも一度や二度ではない。旺伝には忠誠心も誇りも何もない。全ては人間として当たり前に生きるためにどんな汚い真似もする覚悟もあった。最高のクズだと言われても仕方ない行為も数々している。だからこそ自分は最終的に地獄に堕ちるとも思っていた。しかしそんな運命が待っていたとしても生きるために必要な事はするつもりだった。
「俺も雇い主の正体は知らないが、予想はついている。恐らく奴は裏の世界を蹂躙している輩だろう。だから部下に伝言をして自分では決して動かない。奴等は用心深い性格だからこそ、正体を想像するのも簡単だ」
旺伝はそうだと言うのだ。奴等の正体は裏世界の住人だと。




