016
化け物の襲撃で花火大会が中止になったので、三人は商店街に寄っていた。お目当ては家庭用花火を買う事だ。旺伝は友奈を背負いながら商店街をブラブラと歩いていると、卍堕羅質屋の向かい側に花火専門店を発見した。旺伝はすぐさま、ラストラッシュの名前を呼ぶ。
「おい、あそこに花火の店があるぞ」
「お、確かにあれですね」
「よし行くか」
「行きましょう」
こうして三人は花火専門店の暖簾をくぐった。すると、店内には色とりどり数々の豊富な種類の花火が勢ぞろいしていた。壁にも花火が飾られてあり、ケースの中にもゴロゴロと花火が置いてある。ここは当たりの店だろうと、旺伝は瞬時に思った。
「いらっしゃい」
すると、目の前に背の低い、顔面しわくちゃのおじいちゃんがゆっくりと此方に向かって歩みを進めていた。明らかに70歳を過ぎている年金マイスターだろう。
「花火が欲しいのだが」
「ほほほ。兄ちゃんら、派手な格好をしておるの」
老人はサングラスとモヒカンに向かって、話しかけていた。
「そんなに派手ですか?」
金髪モヒカン眼鏡のラストラッシュが言った。
「どう見ても派手じゃ。お主らは派手な事が好きな最近の若者か?」
「まあ……嫌いではないが」
旺伝は否定しなかった。すると、おじいさんは戸棚の中からガサゴソと音を立てて、何かを取り出そうとした。次の瞬間、出てきたのは。
「爆竹はどうかね」
「爆竹……」
さっき燃え盛る建物を見たばかりなので、さすがに爆竹は体にも精神的にもキツかった。旺伝は首を横に振った。
「悪いな。激しいのはちょっと」
「そうかい、残念じゃな。それならこれはどうじゃ?」
おじいさんはしょんぼりした顔で、爆竹を元の場所に戻していた。そして、次に取り出したのは。
「ロケット花火じゃ」
「だから駄目だって!」
旺伝は渾身の突っ込みを入れた。
「だったら何が良いのじゃ!」
半ば、逆切れだった。
「普通の家庭用花火でいいぜ」
「おお、あれか。それなら壁に掛けておるぞ。ここにあるから好きなのを選ぶが良い」
そう言うと、老人は脚立を用意して、上に掛けてある家庭用花火を、旺伝とラストラッシュに渡した。五種類程あって、二人は手に取って間近で確認するのだった。
「どれも一緒に見えるな」
「そうですね。訳が分かりません」
二人はそう言うのだった。
「そうじゃの。素人には区別がつかんじゃろ」
「じいさんのオススメはどれだよ」
「これじゃ」
老人が指差したのは比較的大きめのサイズの花火だった。スーパーで見かける花火グッズとは雲泥の差がある一品だ。
「これか。何がどうオススメなんだよ」
「線香花火30本、手持ち花火110本、吹き出し花火1個の計141の花火があって、お値段は5980円じゃ。そこらの量販店に売っている代物とは訳が違うぞ」
ファミリータイプだけあって、やはり値段はする。しかし、こちらにはラストラッシュがいるので財布の心配はしなくて済みそうだった。
「線香花火と手持ち花火は分かるが、吹き出し花火ってなんだ?」
「その名の通りじゃ。花火がブワッと咲き乱れるのじゃ」
「良く分からん」
「やれば分かる。とにかくすごいぞ」
老人の顔がにやけていた。
「では、これにしましょうか」
ラストラッシュはこの家庭用花火でいいと言うのだ。
「本当にいいのか?」
「ご主人オススメですからハズレではないでしょう。携帯ショップのオススメ商品は絶対に信用できませんが、こういった古き良き花火専門店のオススメは信用に値します」
所謂、実質0円の謳い文句だ。ここでは敢えて詳細には触れないが。
「お前がそう言うなら、これを買おう」
「ありがとう。これは良く売れているのじゃよ」
そう言って、老人はその花火をレジに持って行った。旺伝が金を払おうとレジに向かうと不意にラストラッシュに制止させられた。
「ここは私が払います」
ラストラッシュは一万円札を取り出して、老人に渡した。老人なのでレジ清算に戸惑っていたが、それでもお釣りはちゃんと返ってきた。
「マジかよ。ラッキー」
こうして二人は目的のブツを入手したのだった。




