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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 旺伝はひたすら待っていた。ビデオ解析が終わるまで、ビルの屋上から外の景色を眺める時間が限りなく多くなっている。人々はまるで一定の統率のとれた行動をしているかのようにして、道を歩いている。断言できるが、彼等の誰もが笑っていないだろう。これから仕事をするのだから皆が奴隷の顔になっている。そういう旺伝も既に奴隷の顔になっていて、将来の自分に絶望感を抱いている人間の一人だった。いくら頭の中では前向きに考えようと思っていても、これだけの事をされれば前向きに考えるのは到底不可能である。そう思おうとする度に拒否感が生まれてしまう。なぜならば現実を考えているようで、本当は現実逃避をしているだけだと気がついたからだ。この「世界が仮想世界ならどれだけ良かったか」、とか「断言できないが、俺の将来は薔薇色に満ちている」とか明らかに現実と向き合っていない言葉なかりが浮かんでしまうので、旺伝はその内ポジティブに物事を判断するのをやめた。どうせ宇宙では自分の存在なんて埃のような物なのだからポジティブもネガティブもありはしない。毎日を必死で生きるだけで十分だと結論に至った訳である。


 そんなこんなでボーっと景色を眺めている時間が増えると、何時の間にか外は真っ暗になっていた。別に眠っていた訳では無いのだが、時間の進み具合がよく分からなかったようである。どれだけの時間が経ったのか定かではないが、とにかく夜なのは確かだ。その理由は真っ暗だからである。今の所、天候と時間を支配する魔法など聞いた覚えも無いし、そんな魔法があればとっくに禁忌になっている筈なので魔法ではないと当たり前に解釈できる。なので結果的に考えれば今は夜だと誰でも分かる。それでも景色を堪能している自分がいる事から、碩大区は眠らない町なんだなと思えてきた。時計を見ると、既に時刻は夜の23時58分となっていて、もうすぐ日付が変わる時間だ。にもかからわず、先程から見える景色は何も変わっていない。人々は奴隷のように歩き続け、なんらのかの目的地まで移動をしている。それは毎日変わらなく続いているので、本当に人間には考える脳があるのかと思ってしまう程だった。それぐらい、動物的な思考でもあるのじゃないと錯覚してしまう。人間には本当に自由があるのか。その事を考えるようになったのは、明らかにこの会社で働き始めてからだった。


「玖雅さん」


 不意に話し掛けられて吃驚した旺伝は、肩をビクッと動かした後に振り返った。するとそこにはラストラッシュの姿があったではないか。いつものように笑顔を絶やさずにいるので、何故だか旺伝はホッとした気持ちになっていた。最近は彼の笑顔を見ていると安堵感を覚えてしまう自分が存在していた。それぐらい心身ともに追い込まれている状態なのはハッキリと分かるが、それと同時に安堵感を覚える瞬間がたまらなく好きな自分も存在していた。それは今まで、安堵感など感じた程の無い、刺激を感じられない場所にいたからかもしれない。しかし今では悪魔の呪いを全身に浴びて、なおかつ借金に追われている自分がいるので、どうなっても刺激は感じてしまう。不本意ではあるが、この状況をまったく楽しめない自分では無かったのだ。それよりも、心の中ではこのような闘争を望んでいる感覚さえも目覚めつつあった。


「どうしたんだよ。お前も夜景を眺めようとしているのか?」


 旺伝はそう尋ねていた。そもそも社長のラストラッシュが屋上を利用するだなんて聞いた覚えがない。彼はお金持ちなので屋上の空気を吸わずとも、酸素カプセルの中に入って、いくらでも新鮮な空気は吸えるからだ。金持ちは金持ちなりのリフレッシュ方法があり、貧乏人には貧乏人のリフレッシュ方法がある。無論、旺伝は後者なのは間違いない。自分でも認めたくはないが、親の力を借りない自分は惨めな存在にしかなりえないのだと悟ってしまう。親の七光りだと言われないぐらい、親の力を借りずにここまで生きてきた自信はあるのだが、それと同時にまったく金を生み出していない自分が浮き彫りになっていた。今まで祓魔師としての仕事があったのは親の影響力があったからなのは間違いないので、今まで自分の力だけでは生活費も稼げていない。その事実が旺伝には重くのしかかっていた。



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