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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 目の前の黒人はいかにもアメリカのスラム街から抜け出してきた強盗という見た目をしているが、どうやらそれは誤りのようだ。彼はスポーツ選手でありしかも野球をしているというのだ。どうりで子供達からヒーローのように見られる訳である。確かに公園に野球選手がいたら日曜日のヒーローショーなど見なくても良い訳だと妙に納得する旺伝だった。旺伝は特に野球には興味はないが、それでも子供達にとっては憧れの存在であるというのは容易に分かる。


「それで、あんたの名前は?」


 旺伝は当たり前のように名前を尋ねた。どんな人だろうが必ず名前はあるので初対面の人には必ず名前を聞くべきだというのは分かりきっている。だからこそサラリーマンは最初に出会った人に名刺を交換して互いの名前を知るという基本的な動作を行う。こういった社会の常識は日常生活にも応用できるので、気になった相手には積極的に声をかけて名前を尋ねた方がいいだろう。それに名指しで呼ぶよりかは幾分もマシな筈なので聞いて損は無い。


「俺の名前か?」


 すると黒人野球選手はハニカミながら訊ね返して来た。このように自分の名前如きで勿体ぶるのは相手に不快を与える可能性があるのでやめた方が良い。よっぽど珍しい苗字なら話しは別だが、散々もったいぶって「山田太郎だよ」と言われた日には怒りが込み上げて大乱闘に発展する恐れも微々たる確率で存在するのでやめた方が良い。それに名前なんて大したものではなく、むしろ人間性の方が大事なのだから。


「ああ、そうだ。今度試合を見に行ってやるから名前ぐらいは聞いておきたくてよ」


 これは勿論社交辞令だ。人は社交辞令を極端に嫌う者とそうじゃない者とで丁度半分ぐらいに別れるが今の旺伝は前者だ。昔はテレビのワイドショーで良く見る警察官僚の社交辞令を見ていただけで首を傾げていたぐらいだが、今の旺伝は社交辞令が無いとやっていけないというぐらいにまで急成長していた。確かに行く気も無いのに「今度飯でも食べましょうね」という人間は傍から見ればうそつきに思えてしまうが、行かない可能性が0ではない限り嘘にはならないので全く問題は無いのだから。


「俺の名前は……ローンレンジャーだ」


 黒人アメリカ選手は真面目な顔でそう言っていた。すると、隣でこの光景を見ていたダニーボーイはとたんに不満げな顔をしてローンレンジャーの元へ近づいて行く。二人は目と鼻の先まで接近しているのだが、野球選手とほぼ同じ背丈と胴回りを持っているダニーボーイには恐れ入る。旺伝は身長だけなら勝っているが、とてもじゃないが筋力は向こうの方が格段に上だろう。しかしダニーボーイは筋力でも互角に渡り合えるのではないかと思うぐらいの胸板と肩幅をしているのだった。


「お前みたいな黒人がローンレンジャーだと?」


 どうやらローンレンジャーを名乗っていいのは白人だけらしい。しかし旺伝はここでとある疑問を思って、その疑問を投げかけた。


「お前だってダニーボーイじゃねえか。人の事は言えないんじゃねえの?」


 まさしく旺伝の言う通りだ。二人ともどう考えても仮の名前にしか聞こえないのだから比べようがない。ただ一つ言えるのは、二人共生まれ持った犬猿の仲のようで火花を散らしているという点だ。初対面の相手とこれだけ睨み合えるのだから前世でよっぽどの事があったのではないかと疑う程である。


「それで、青髪の君は何という名前だ? ここまできて教えてくれないなんて卑怯な真似はしないだろうな」


 フェアプレー精神を持っている旺伝がそんな汚い真似をしない。片方が名前を名乗ったらもう片方も名乗り返すのが当たり前の世の中で、旺伝がそんな人間のクズのよう真似をする訳がない。自分の名を名乗り返さないのは最低の人間がする行為であり、もしもそういう人間と出会ったら「非常識な野郎だ」と一言呟くのもありかもしれない。それだけ人間としてはやってはいけない事をしているのだから少しはお灸をすえた方が本人のためにも良い。なんせ人間で一番やってはいけない行為は無視なのだから、知ってて注意しないのは自分のためにも本人のためにもならないので、それこそやってはいけないのだと旺伝は考えていた。





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