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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 ついに出社する時間となったので、旺伝は弟の聖人に別れを告げていた。と言っても、そんな大それた言葉は交わさずに普通の挨拶をしたぐらいだが。


「それじゃ、ちょっくら会社に行ってくるわ」


 旺伝が所属しているクライノート社は社長が社長なので服装は自由だ。面接の時もバイト感覚でラフな格好をしても大丈夫という大企業とは思えない感覚だ。しかし、面接は社長のラストラッシュが直接引き受けるので志望者は緊張した面持ちで接する事必須だ。なぜならば世界的に有名な人物が目の前で自分の話しを聞くというのだから相当な緊張感があるだろう。しかも最近流行りの圧迫面接ではなく、1対1の古典的な面接だから余計にタチが悪い。旺伝はその面接を受けずに秘書という役職についたから分からないが、噂では予想外の質問が飛び出して、志望者はあたふたと焦りまくるのが定番となっているらしい。あのラストラッシュの事だから何となく予想はつくが、それでも志望者は可哀想だ。面接では定番の『なぜ、うちの会社を志望したのか』という質問が無いのだから本当にバイト感覚で面接をしているのかもしれない。そんなこんなで、会社も私服出社は大丈夫という緩い事態になっているのだ。


「迷った時はまた来いよ。俺が道筋を示してやるから」


 そう、聖人は他人の歩み道を教えてくれるが、それ以上は決して教えてくれない。自分の道だからどう歩むかは自分で決めてくれという願いがきっと込められているのだろう。まあ予想に過ぎないのだが。


「ああ。行ってくるよ」


 こうして旺伝とダニーボーイの両者はクライノート社の日本支部に向かって歩みを進めていた。すると山を降りた道中に奇妙な光景に目撃した。一昨日、旺伝とクロウが壮絶なバトルを繰り広げた公園に偉丈夫の男が大勢の子供達と一緒に遊んでいるのだ。両肩に子供達を乗せて景色を堪能させていたり、そのまま鬼ごっこに発展したりとあまり見慣れない光景がそこには広がっていた。この前まで血みどろの戦いを繰り広げていた場所で大人と子供達が楽しそうに遊んでいる姿はあまりにも記憶に残る一瞬だった。


「そう言えば、今日は日曜日だったな」


 ダニーボーイは黒いサングラスを光らせて当たり前の情報を的確に飛ばしていた。クライノート社は基本的に平日が休みの会社なので土曜日だろうが日曜日だろうが、関係なく出社せざる終えない。だからこそ目の前の光景がよりいっそう微笑ましく感じさせられるのだが。


「すっかり忘れていたぜ。こんな朝っぱらから子供たちが遊んでいたから違和感を感じていたが、日曜日ならば納得だ」


 しかし、日曜日の朝と言えばヒーローショーの時間だ。それなのにわざわざ眼前の男と遊んでいるのだから、あの男は相当子供達に好かれているのだろう。その理由もなんとなくわかる。あの男は旺伝よりも身長が高くて、しかも格闘家のように太い腕をしているのだから子供達に好かれて当然かもしれない。


「それにしても、あの男は凄まじい怪力の持ち主だな。人間離れしている」


 ダニーボーイも驚く程の怪力を誇っているというのだ。目の前の男は。確かにそう言われれば子供達を両肩に乗せて鬼ごっこをするというのは下半身が相当強くなければ到底不可能な芸当だ。


「あの巨体といい、スポーツ選手か何かだろうか」


 旺伝はスポーツの類を全く見ないので正直どのスポーツ選手が最近活躍しているのか分からない現状だ。しかし、旺伝の父親は大のスポーツ観戦好きであり、特に野球とサッカーには釘づけになるほどだ。そういう意味ではスポーツ観戦の血筋はまったく継承していないという事なのだろう。


「……気になるな。確かめてみるか?」


「そうだな。頭がモヤモヤしたまま仕事をするのは効率が悪くなるし」


 こうして二人の意見は一致したようで公園に入った。そして子供達と一緒に走り回っている偉丈夫の男に声をかけたのだった。


「おい、そこの木偶の坊」


 そう言った瞬間、目の前の男はピタリと止まって、首だけ此方に向けてきた。遠くから見ていたので分からなかったが、この男はどうやら黒人のようだ。


「木偶の坊とは俺の事かな? ジャパニーズボーイ」


 彼は全身から凄まじい威圧感を誇っている。並の人間では到底出せない迫力だ。それに押されそうになるが、せっかくここまで来たのだから正体ぐらいは知りたいと思う旺伝は質問を更に続けた。


「あまりにもデカい図体だから驚いてさ。なにかスポーツでもやってるのか?」


「ああ。野球をやっている」


 そうだと言うのだ。この男は野球をプレーしているのだと言う。



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