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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 こうしてなんとか元気を取り戻した旺伝は心の底から大声を出した。やはり人間は大きな声を出せば何かしらのストレス解消になる。せっかく山に来たのだから山本来が持っている性質を生かして大声を出したという訳だ。これには弟の聖人も納得した様子で頷きながら旺伝の肩を叩いていた。


「随分と成長したじゃねえか。今までの兄貴なら大声を出すなんて大それた真似は出来なかった筈だ。それなのにここにきて殻を一枚破ったようだな」


 そうなのだ。旺伝は本来クールなキャラとして周りの人々に認知されていたのだが、ここにきて色々な出会いを重ねるうちに自分の性格を見失っていた。あまりにも周りの変化が多すぎて自分自身の性格も変化していたのだ。前まではラストラッシュのナンセンスな服装に吐き気を覚える程苦しんでいたのだが、もうそれには慣れてしまい、むしろラストラッシュが真面目にスーツを着こんでいたりすると違和感を感じてしまう程だった。それぐらい旺伝は世の中の理不尽な流れに対応できるだけの性格に変化していた。と言っても、根本的な性格が変わる訳ないので旺伝は昔も今もナンセンスな事態を目撃してしまうと、とたんにやる気を失ってしまうのは変わらない。旺伝の何が変わったのかと言うと、どんな出来事にも慣れると問題は無いという前向きな気持ちになった事だ。以前は常に後ろ向きにしか物事を考えられなかったのだが、ここにきて前向きにする意志が芽生えていた。そして前向きに考える事で、今自分が何をすべきなのかを見定められるようにもなっているのだった。


「無理して冷静なフリをするのはもうやめた。今後は自分のやりたいようにやるさ」


 そう、人間は自分のやりたいようにするのが一番ストレスを溜めない方法だ。かといって下手に乱暴的になると後で罪悪感に囚われる羽目になるのでそういう短気な考えはやめておいたほうがいい。それよりも今旺伝が感じているのは他人と正しくとコミュニケーションを取ろうとする考え方だった。今までの旺伝が他人から冷静に見られたのはたんなるコミュニケーション不足であるのは他ならない。旺伝は所謂普通の人間なので、人と接するのがあまり上手では無いタイプなのだ。


「その意気だ。人間はストレスを溜めるのが一番体に悪いんだから自分勝手に生きるべきなんだ。勿論、法律を破らない程度のな」


 そう、下手に法律を破って監獄生活にでもなれば元も子もない。それこそ他人に縛られた生活を強いられるのでストレスがマッハのスピードで蓄積されて体に良くないのは分かりきっている。刑務所とは身よりの無いお年寄りが入る無料の介護施設のような物なので未来ある若者が入っていい場所では無いのだ。だからこそ聖人は法律を破らない程度に好き勝手に生きる必要があると言っているのだろう。そのあたりは血がつながっているので何となく考えている事は分かる。


「好き勝手に生きるか……。今まで考え方事もないし、実行しようともしなかった」


 ほとんどの人間はそうだ。自分勝手に生きるのはいけないと学校や親から教わっているので、自然と自分中心の生活から追い込まれていき、最終的にはストレスを溜めやすい体になっていく。しかし弟の聖人は思春期の内に自分勝手に生きるという道筋を立てているので、未来は明るい筈だ。旺伝のようにある程度自己を形成した者には到底不可能な行為である。


「私利私欲のために生きるのが人間ってもんよ。それを胸に抱いていれば下手にストレスを溜めないで済むんじゃねえか?」


 聖人の言う通りだ。少なくとも自分のやりたい事だけをやっていれば無駄なストレスを溜めずに生きられる。しかし、大部分の人間は好き勝手にやりたいと思っても実行できないのがほとんどだ。なぜならば既に社会という名のルールに縛られている後なので自分勝手に生きようとしても無理なのは当たり前だ。やはり自分の思想とは中学生の思春期に形成されるものなので、大人になってから好き勝手にやろうとするのはとても難しい。旺伝自身も今更好き勝手に生きるのは不可能だと心の中では感じていた。


「そうだな。思うだけなら簡単だ」


 実行するのは限りなく難しいので今の旺伝には到底無理な相談だ。だが、私利私欲のために生きようとする姿勢は簡単なので、聖人の言う通りその考え方を胸に抱いて少しでも身に襲ってくるストレスを軽減しようと考えていた。



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