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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯4 ぼくらのヒーロー
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 人間はたらふく食べると満足感と幸福感を得る生き物だ。恐らくこれは我々がまだ科学を持たない頃、飢えを感じていた名残がまだ残っているからこそ食べる事でストレスを解消できるのだろう。実際、人間の三大欲求の一つなのだから感じない訳がないのだ。歳をとれば食べる量も自ずと減ってくるが、それでも美味しい物を食べると満足感を感じるのは御老人の方も同じである。そうなると、旺伝のような食欲旺盛な若者はたらふく御飯を食べたいという衝動に駆られるだろう。


 そして旺伝の目の前には御馳走が広がっている。この山で採れた新鮮なキノコやら山菜やらが食材としてふんだんに入っていて、メインはイノシシの肉だ。グツグツと煮えたぎっていてかなり旨そうだ。本来、朝は活気に満ち溢れた時間帯なので舌が喜ぶだろう。朝が苦手なのは精神的な部分だけであり、肉体的に最高に満ち溢れている時間帯は朝の5時である。だからこそ精神的にも成長すれば朝の時間は1日の中で最高になる筈だ。旺伝も本能的にそれを感じていた。


「久しぶりだな……朝からこんなに食べるのは」


 旺伝は心の底からエネルギーを感じていた。朝、ありったけの御飯を食べるという行為がどれだけ活力を生み出すのか分からなかったからだ。朝からは食べられないという自分勝手な思い込みのせいで、この気持ちを長らく感じられなかったのだから損していた気持ちである。それと大勢で飯を食べるのも素晴らしい瞬間だった。


「俺は朝ガッツリ食べるぜ。一日の始まりこそ腹いっぱい食べるべきだ」


 まさしくその通りだ。一日の最後に腹いっぱい夜食を食べているようでは人間として二流であるという事を弟の聖人は知っている。夜に飯を食べるよりも朝にご飯を食べた方がいいに決まっているのだ。しかし、人間はそうだと本能的に分かっていても中々実行できない。その理由はまさしく朝に余裕が無いからだ。ほとんどの人間は朝ぎりぎりまで寝ているのが多いため、朝から御飯をありったけ作る余裕が無いからこそ、パン一枚とかおにぎり一個とかに止める人間が圧倒的に多い。だが、そうじゃなくていつもより2時間早く起きて朝に余裕を持つ事が最高のスタートダッシュとなるのだ。人間は誰しもそれを知っているが、やはり睡眠欲にはあらがえない。人間の三大欲求だからこそ、理性と思考だけでは朝早く起きようだなんて無理だ。朝早く起きるためには本能を研ぎ済まないといけない。本能を研ぎ澄ますというのは自分が本当にやりたい事をとことん追求する事である。今の旺伝には少し荷が重い行為であるが、そうしないといけない理由もあるのだった。


「お前は偉いな。ほとんどの人間はそれを分かっていても中々実行できない」


 それはたとえ40歳を超えた大人だろうと無理な人間はとことん無理だ。いつもより2時間早く起きるという行為は人間性を高める上でも必要な課題なのだが、環境を言い訳にして早く起きない輩が実に多い。本当は起きないのではなく、起きれないくせに無駄な言い訳ばかりをするのだ。しかし、弟の聖人は決して言い訳をせずに誰よりも早く起きて誰よりも体を動かして最高の一日を過ごそうと努力している。それは今の旺伝とはまるで逆の性質だった。


「そりゃ、理性なんかに頼っている内は無理だろうな。俺は物事を本能的にしか感じないから早起きが出来る」


 朝早く起きればそれだけ自分を強く出来るという事を知っているので、彼は起きられるというのだ。しかも朝早く起きるためには早起きのメリットを知る必要性などまったくなく、それよりも本能的に朝起きようとする行動力が必要だと言うのだ。


「生活する上で理性はいらないという訳か?」


 旺伝はそう問うていた。すると弟の聖人は大きく頷きながらこう言っていた。


「当たり前だろ。理性なんて生きていても役にも立たねえって」


 聖人はそういう考え方なのだ。本能的に考える事こそが生物として正しく生きて行くのに必要な存在であり、理性はいらないのだという。今の理性に縛られている旺伝には目からうろこがでそうな話しだった。


「そういう考え方が羨ましいよ。俺には絶対に無理だから」


 人は誰しも違う考え方を持っているからこそ、旺伝には本能だけで生きるのが難しいのだ。彼は本能と理性のバランスを保ちながら上手く生きてきたので、今更理性を捨てるだなんて到底無理な話しである。


「兄貴は兄貴の考え方で生きればいいだろ。別に強要してる訳じゃねえし」


 聖人はそうだと言うのだった。



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