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仕事とは厄介な物だ。人生の半分以上を占めるため、下手な考えをすれば社会の荒波に揉まれてしまい大変な事態へと発展する。しかし高い意識を持って物事を判断すれば最悪の事態も回避できるのが仕事の特徴でもある。それを目の前の玖雅聖人という男は可能にしているのだから素晴らしい。中学生という大事な思春期を山籠りに費やしているからこそ大人が羨む強靭的な精神力を手にしてしまっている。例え弟だとしても、その類まれなる才能は尊敬に値する。さすがに山籠もりというナンセンスの塊を実行するには勇気はいるしやりたくもないが、少しでも中学生という無限の可能性の塊に触れていたいと、今の旺伝は考えていた。それぐらい精神力はボロ雑巾のように頼りなくなってしまっている。余命もいつまで何かハッキリと分からないし、本当に悪魔の血を治療する方法が見つかるかも分からない。そんな中で借金に追われて地獄のような正社員の日々をおくるのはさすがにキツイのだ。さすがに全ての胸の内を弟にさらけ出すような真似はしないが、それでも少しで良いから今の状況を聞いてほしいという部分もあって些か葛藤をしている。
「まあ、魚でも食ってゆっくりしてけや」
聖人はそう言うと、串で刺されている焼き魚を旺伝とダニーボーイに渡した。昔から彼は手先を使うという器用な真似は出来なかったので、恐らく魚を焼くという真似しか出来ないのであろう。だが、それが聖人らしくていいと旺伝は思いながら魚を受け取った。
「ありがたくいただこう」
丸太の上に座って魚にかぶりついたのはいいが、案外骨が多くてビックリした。どうやら隣に座っているダニーボーイも同じようで苦虫を潰したような顔で口から大量の骨を噴出していた。いつも冷静な彼でも大量の骨には我慢できないようだ。
「なんだ……凄い骨の量だな」
ダニーボーイはそう言っていた。骨が大量にあるのだと。
「そりゃそうだろ。魚も動物なんだから骨ぐらいあるっつうの」
それが聖人の考えのようだ。
「しかし、聖人はこんな場所で身構えていて大丈夫なのか。この山は昔から熊とかイノシシとかの目撃談が豊富で人が何人も死んでいる危険地帯だぞ」
中学生……嫌、人間が住むにはヤバすぎる場所だ。もしも寝ている時間帯に襲われでもしたら命の危険だって考えられる。
「この俺が何の対策も無しに呑気でいると思うか? そんな訳ねーだろ」
すると聖人はおかわりの焼き魚を手にして食べ始めた。恐らく、本日二度目の焼き魚である。ここまで食欲があるのは若い証拠だと旺伝は感じていた。やはり悪魔に変身する事で老化は進んでいるらしく、今の自分にはハッキリと若さが足りないのだと自覚できる。この老化現象も止められるのか心配する要素の一つである。確かに見た眼こそ17歳の若い自分のままだが、確実の中身は老けている。もうアラフォーになっているのではないかと思うぐらいだ。
「罠か」
ダニーボーイはそう言いながら呟いていた。
「そう、その通りだぜ。俺の寝床の近くには罠をしかけてある。踏むとワイヤーが作動してイノシシを網に捕まえて木の上に吊るすという渾身の罠がな……いやあ、我ながら惚れ惚れする程の出来だぜ」
サバイバル術をしているだけあって罠の大切さを知っているようだ。かつて自分も狩りに出かけていた時期もあったのでこの辺りの判断は血筋ではないかと疑っていた。即ち両親のどちらかが狩猟好きであるという事だ。無論、旺伝の中ではおおよその予想は出来ているのだが。
「山籠もりとは、案外面白そうだな」
ダニーボーイはすっかり慣れた手つきで骨と身を分けながら魚を食べていた」
「そうだな。考える事がいっぱいあるし飽きはしないぜ、それに天敵とも言えるイノシシも熊も貴重なタンパク源として重宝するしな」
なんと、あの獰猛な動物達を捕まえて食べているというのだ。これには旺伝もお茶を噴出しそうになる。野生の動物を捕まえて食べるのは野蛮にも程があるからだ。
「ちょい待てよ。雑菌とかしなくて大丈夫なのか」
「最初は苦労したが、次第に抗体が出来て今では大丈夫だ」
そういう問題ではないだろうと、ツッコミを入れたくなる旺伝だった。




