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二人は友奈を花火大会の本部に避難させておいて、怪物の捜索を始めていた。やはりこれだけ人がごったがえしているので、一人でも手伝ってくれる存在がいるのはありがたかった。しかし、契約金の半分という条件は、カジノに生活費の全てを投入してボロ負けした旺伝にはかなりきつい条件だった。
「東日本、核戦争の影響で死の灰が降る地区ですね」
第三次世界大戦だ。中国と日本のイザコザが原因で、二十一世紀に起こった。自衛隊が出動する異常事態になったが、結局核戦争を止める事は出来なかった。これにより、日本は東日本に核を撃ち込まれて、国民の三分の一を失ってしまう。
「そうだ。そこから怪物が逃げ出したらしい」
放射能に汚染された建物の残骸やゴミなどを全て撤去するのは、当時の財政から考えても不可能だった。それ故に、東日本は百年以上隔離されているままだ。そこから放射能で異形の生物に変化した怪物が、この平和な西日本に侵入してきたというのだ。
「それを私達が見つけ出すのですね」
そう、二人が捜索するのだ。
「そういうこった。てか、本当は依頼金の全額貰える筈だったのによ」
生活費が全くない状態だ。不安がるのも仕方ないだろう。最も、生活費がないのは自分のせいだが。
「二人で捜索するのですから、分け前は貰わないと割に合わないですよ」
「なんだよ、タダ働きは嫌いか?」
「この世で一番嫌いな物は何かと聞かれれば、タダ働きと答えるぐらい嫌いだと言っておきましょうか」
つまりは、相当嫌いという事らしい。
「ちょいちょい、ボランティア精神の欠片も無い奴だな」
「ボランティアは時間が余っている人がするのです。私は生憎、忙しい身分なのでボランティアをしている暇はありません……が、お金が発生するのなら話しは別ですよ」、
ラストラッシュは口を動かしながらも、ちゃんと辺りを見まわって警戒していた。出来る大人は口だけではなく体全体を動かしている。社会には口だけ偉そうに動かしているが、仕事の出来ない無能な上司はたくさんいるのだ。その点においては、ラストラッシュは有能な上司になれる才能があるようだ。
「金の亡者め」
旺伝は、そんなラストラッシュに残酷な物言いをする。ところが、
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
皮肉かどうかは分からないが、ラストラッシュは感謝の言葉を言っていた。こんな人間はまずいないだろう。面と向かって悪口を言われて、ありがとうと言えるのは。
「褒めてねえよ」
旺伝も、そう言い返す以外の選択肢が無かった。
「しかし、いませんね」
ラストラッシュが言う通り、赤い色の目をした人間は見当たらなかった。というより、この何千人といる港の中で一人の人間を探し出すのは不可能に近い。
「くそ、他に手がかりがあれば」
そんな時だった。旺伝の目の前に一人の人間の姿が飛び込んできた。その人間はピエロの被り物を持って、赤い風船を子供達に渡しているのだ。明らかに場違いだったが、何故かピエロの周りには子供たちが集まっていた。
「何を見ているのですか?」
急に立ち止まった旺伝を不思議に思ったのか、ラストラッシュが後ろから声を掛けてきた。
「あれ見ろよ。ピエロが赤い風船を子供達に渡している」
「それがどうかしましたか?」
「おかしいだろ。祭りにピエロだぜ? しかも赤い風船だけ配ってるピエロなんて聞いた事が無い」
旺伝は顔をしかめて、そう言うのだった。
「確かに、そう考えると違和感の塊ですね」
「標的がピエロの被り物で顔を隠しているのかもしれない」
旺伝はピエロに近づいて行った。そして、被り物を掴んで、それを外したのだった。




