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調査部隊が送られるという事で二人はその場で待機していた。さすがに帰るのは感じが悪いと思ったからだ。そして調査部隊と思しき面々がやってきたのは、雇い主に連絡を入れてから丁度10分後の事だった。黒い高級車を乗り回して、サングラスを掛けた黒服の男が車から降りたと思うと、後に続いてトラックがやってきた。しかも数えるだけでも10台ものトラックが停車して、中から作業服を着た男達がわんさかとやってきた。どうやら先程の男は調査部隊を取り締まるリーダーのようであり、降りてきた作業員たちに指示を飛ばしていた。
そしてある程度の説明が終わったと思うと、作業員たちはロープを使って死体の引き揚げ作業に移行していた。彼らは旺伝とラストラッシュには目もくれず、全力で崖に移動したと思うと自分達の仕事に取り掛かっていた。あまりの手際の良さに旺伝は眠気も吹き飛びそうな勢いであった。
「これはこれは。君がボスから命令を受けた祓魔師かな?」
すると、黒服の男が近づいてきて旺伝に話しかけていた。
「ああそうだ。今回は色々と済まなかったな」
「いいやこれも仕事の内だから気にする事は無い」
仕事と割り切っている者は、どんな仕事にも文句など言わずに黙々と手を動かす。しかし、仕事をプライベートの延長線だと考えている者は、平気で愚痴をこぼして不満を口にする。どちらがよりプロフェッショナルであるかは言うまでもない。
「それであんたは何者なんだ?」
「ああそうだった。自己紹介がまだ終わっていなかったな。俺はボスの右腕としてどんな汚い仕事もこなす男だ。これと言った役職は無い」
「名前は?」
「ダニーボーイとでも呼んでくれ」
黒服の男はそう言うのだった。
「ダニーボーイか。では一つ聞くが、あんたのボスは何が目的で悪魔の回収を依頼してきたんだ?」
さっきから気になって仕方が無かった。元々、依頼など興味の無い男だったがこれだけ濃密に悪魔との戦いを繰り広げると、どうしても興味が湧いてしまう。それに興味があるのにだんまりを続けていたら体の調子も悪くなる一方である。言いたい事は言った方が精神的にも楽だ。なので、旺伝は失礼と承知ながらもダニーボーイに真意の程を確かめていた。
「彼は純粋な興味だと言っていた。本来地球には存在する筈の無かった悪魔が、どのような課程で成長したのか、それを知りたいようだ」
黒服の男は冷ややかな声でそう言っていた。彼はまるでマシーンのように感情が無く、ひたすら旺伝の問いに答えるだけだ。感情などまるで感じられない。ただ命令に従うだけの冷酷な機械のようだ。
「へえ。随分と研究熱心な奴だな」
「もしかすると君の呪いを解く方法も見つかるかもしれない」
ダニーボーイは知っているようだ。旺伝の身体を蝕んでいる悪魔の呪いいの事を。
「そいつは楽しみだな。このまま死ぬのはちょっとばかりナンセンスだと思っていたところだし」
具体的な時間は分からないが、医者が言うには変身を乱発すると1年以内に老化が急激に進むらしい。見た目にはほとんど現れず、急に爺さんになるというのだ。
「その間、あまり過度な変身は控えた方がいい。君だって少しでも長生きしたいだろう?」
誰もがそうだ。長生きして家族に囲まれて幸せな人生を築きたいと思っているだろう。だが、そう上手くいかないのが人生だ。必ずしも結婚できる訳でもなく、孤独な独身生活を余儀なくされている男女はたくさんいる。彼らはそれで幸せなのかもしれないが、家族の存在が無いのはちょっとばかし寂しい物である。
「当たり前だ。俺だって孫に愛される幸せな爺ちゃんになりたいからな」
「それまでに呪いを解く鍵を見つけられればいいな」
ダニーボーイはそうだと言うのだった。




