011
「そろそろ行こうよ。花火大会!」
友奈が騒いでいたので、旺伝が時間を確認すると、19時40分だった。花火大会が始まるのは20時なので確かに移動した方がよさそうだ。そう思った旺伝はラストラッシュに話しかける。
「お前も見るんだろ、花火大会?」
「当然です。ここまで来て仲間外れは寂しいですよ」
ラストラッシュは缶ビールに口をつけながら、言葉を返してきた。
「分かった。一緒に見ようぜ」
プルプルプル。
そこで、不意に旺伝のスマホが鼓動を始めた。ポケットの中で暴れ狂うスマホを手に取り、起動させると、電話が鳴っていた。相手は依頼人の男からだった。唐突に、嫌な予感がして電話を取った。
『旺伝君か?』
やはりそうだった。声は依頼人の男の声だ。
「そうだが、お前は依頼人の男か?」
『そうだ。お前に電話したのは他でもない。標的のビーストが出現したぞ』
やっぱりか。旺伝はそう思って溜め息を吐いた。
「はぁ。このタイミングでか」
『なにか用事があったのかね?』
「今から花火見ようと思ってたが、依頼があるのなら仕方ないな」
『そうか、為らば安心したまえ』
男の声色が変わった。若干笑いが混じったような声だった。
「どういうことだ?」
旺伝は聞き返す。
『花火を見ながら標的と戦えるぞ』
「ちょいちょい、勘弁してくれよ。まさか」
『そのまさかだよ。標的は花火大会の会場に紛れ込んでいるようだ』
「紛れ込んでいるだと?」
『言い忘れていたが、標的は人間型の怪物だ』
「待てよ。それなら、どうやって見抜けっていうんだよ!」
旺伝は若干苛立ちをしていた。顔が引きつっている。
『目の色が違う。恢飢と同じだ』
「ってことは、赤色の目をしているのか?」
『そうだ。頑張って探してくれ。出来れば生け捕りにしてくれよ』
ブチっ、という音と共に電話が切れた。あまりの素っ気ない態度に、思わず、旺伝は電話口に向かって叫び倒す。
「おい、ざけんな。まだ話の途中だろうがい!」
「どうかしたのですか?」
ここで、ラストラッシュが話しかけてきた。旺伝は何故か不意にラストラッシュが頼もしく思えてしまい、陰に呼び出した。
「ちょっといいか。友奈はそこで待っててくれ」
「うん。待ってる」
旺伝はラストラッシュを陰の方に呼び出して、こそこそと話しを始めた。
「ちょっとお願いがあるのだが」
「まさか、盗賊ギルドに入る決心をしたのですか?」
「違うって!」
そう、言うのだった。
「あら」
「この花火大会に異形の魔物が紛れ込んでいる。東日本からやってきた奴だ」
「それは……大変ですね」
ラストラッシュの顔が一変した。かなり真剣な表情だ。
「一緒に探してくれないか? そいつを生け捕りにしろって依頼があるんだ」
「うーん、どうしましょうか」
しかし、ラストラッシュは悩んでいるようだった。
「頼むよ。俺一人で見つけられる訳ねえだろ」
「私は報酬を受け取らないと動かない主義です」
「ほ、ほうしゅう?」
聞き返すのだ。
「そうですね。依頼金の半分でどうでしょうか?」
「ちょいちょい。こっちは生活費がかかってるんだぞ」
「逆に言えば、依頼金の半分を払えば私は動きますよ。どうします?」
旺伝の弱みを突いた、適格な交渉だ。
「……分かったよ。半分やるから手伝ってくれ!」
しぶしぶ、ラストラッシュの要求を受け入れるのだった。




