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「不老不死と言えど、剣で胸を突き刺せば死ぬのか?」
旺伝はそう問いかけた。胸に心臓を刺せば、たとえ不老不死の体でも絶滅するのかと。すると、一文字は首を縦に振りながら、こう答えていた。
「如何にも。老化による肉体の崩壊が無いだけで、外からの攻撃は受け付けるからな」
老いる事は無くても、武器によっては肉体のダメージを受けるというのだ。
「そうか。ならば理事長は相当な実力者という訳か」
「どうだろうねえ……。上には上がいるし、自分を強いとは思ったことが無いよ」
「それでも、この神殿の中では一番強いんだろう?」
「いいや。ワシは二番目だよ」
一文字はそうだと言うのだった。自分は二番目に強いのだと。そうなれば、誰が一番強いのかという疑問が浮かんでくるのは必然的だった。なので、旺伝は更に、畳み掛けるように質問攻めをしていた。
「二番目? もっと強い奴がこの神殿にいるのか」
「いるというのは適切な答えじゃない。正しくは見ているだ」
空を見上げながら、そう言っていた。
「見ているだと?」
「この神殿は古代の戦闘神を崇拝する者達が集まっている」
「ああ……そういう事か」
旺伝は気が付いた。誰が一番強いのかを。
「だからワシは二番目なのだよ」
「そうだな。崇拝している神より強い訳ないもんな」
「もし、あの方よりワシが強いのであれば、大変おこがましい事だ」
自分が神より強いというのは許されないというのだ。
「で、その戦闘神ってのは何者なんだ?」
「零界堂盾侍。彼は元は人間ながらも初めて天空の神へと昇華した伝説の祓魔師だよ」
「その名前は良く知っている。あの戦争で活躍した祓魔師の一人だな」
「左様。戦争時には7億の軍勢を1人で倒した強者じゃったが、最終的には命を落としてしまった。そして魂は天空へと昇り、今では誰もが知る戦闘神として神々の戦いに参加している」
零界堂盾侍はそこまでの人物だと言うのだ。これにはさすがの旺伝も驚きを隠せない。なんせ、人間が正真正銘の神へとなったのだから。
「戦闘神という称号では無く、本物の神になったのか。あの人は」
「なったのだよ。まったく、肉体が朽ちても、未だに魂は健在か……いかにも盾侍らしい」
いつの間にか、一文字は彼の事を神様ではなく一人の人間を呼ぶようにして口に出していた。しかも、どこか懐かしさに浸っているような感じだ。
「ということは、この神殿は最近彼の信仰を始めたのか」
「その通りだよ。最初は特に信仰の対象は無かったのだが……」
すると、目の前に鍛冶場が見えたところで一文字は制止した。そして、人差し指をそこへ向けて「アレだ」と言ったのだ。
「あそこに見えるのが鍛冶屋の人か」
「そうだ。二人共、行ってくるがいい」
「理事長さんは行かないのか?」
「ワシはもう眠い。布団にもぐらせてくれ」
そう言うと、彼は眠たそうな目を擦りながら方向転換して、帰っていった。ふと横を見るとラストラッシュは最敬礼をしてお辞儀をしているではないか。相変わらず律儀な男である。




