104 不老不死
この神殿が何故、このような場所に建てられているのか、そして、何のために存在しているのか旺伝には分からなかった。幼少の頃は歴史的建物に興味など無く、そのまま魔法界へと旅立ってしまった。こうして日本に戻った今でさえも、特に興味関心が脳裏に浮かぶ事は無い。だが、前々からこの建物が気になっていた。疑問を投げかけるのは、それで十分だ。
「それにしても、不思議な建物だな。いつから建設されたんだ?」
鍛冶場に行く道中、前を歩く理事長に向かって疑問を投げかけた。疑問こそが行動力の源であることは父親から学び、たった今それが本当だった事を知る旺伝だった。なんせクエスチョンが無ければ、会話すら生まれないからだ。特に見ず知らずの他人と会話を交わそうとするならば、疑問は欠かせない。
「ああ、そうだな……300年以上前だったような気がする」
理事長も詳しく覚えていないようだ。それが年の影響なのかどうかは定かではないが。
「気がするって、また随分とアバウトな」
「仕方無いだろう。俺に時間の流れは存在しないのだから」
「どういう意味だ?」
彼の一言に再び疑問を感じる旺伝だった。やはり会話を育むのはクエスチョンである。このように、会話を断ち切る隙を与えさせない。
「ワシの体にはテロメアという不死の細胞が生きているからさ。そして活動疲労や化合疲労の類を一切受け付けない仕組みが出来上がっている」
テロメアとテロメラーゼの働きによって、彼は不老不死として長年生き続けられているというのだ。
「生まれ持っての特殊人間なのか」
「かの有名なサンジェルマン伯爵と同じ体細胞を持っているだけだ」
22世紀では不老不死の存在はとても珍しい事になっている。以前は不老不死の人間など存在しないというのが世間一般の声だったが、21世紀半ばにサンジェルマン伯爵が表舞台に登場してからというものの、不老不死は存在するという声が瞬く間に広まった。科学が発展した今の世の中でも研究テーマとされているが、それでも多少の進歩はしている。
「不老不死か。ナンセンスの塊だな」
「なんだと? 不老不死がナンセンス?」
理事長は立ち止まって此方を振り返ってきた。眉間にシワを寄せて、その目は怒っているようにも思える。これには隣にいたラストラッシュも不安そうな表情を見せてこう言っていた。
「不老不死の方がいる目の前でナンセンスというのは如何な物でしょうか」
「だからこそ俺は言ったのさ」
敢えてだと言うのだ。
「それでは教えてもらおうか。不老不死が存在するに値しない理由を」
「簡単だ。無限の時間なんて人生の張りを失くすだけじゃねえか」
それが旺伝の考え方だった。時間が無限に存在する事で、時間という勝ちが薄れてしまい、物事を先延ばしにしようとする働きが脳で活発するのだと。
「……確かにそうだな。君の言う通りかもしれん」
すると理事長は旺伝の考えをあっさりと認めたではないか。認めたという事は脳裏にうっすらと不老不死への罪悪感があったという事だろう。死なないという事実は、愛する人が自分より先に死んでいくという意味に値する。不老不死はそんな悲しみを一生背負って生きなければならないので、それを含めて旺伝はナンセンスと言ったのだろう。




