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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯3 悪魔の血脈、覚醒
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 想像していたよりも、級帝曇叡神殿きゅうていどんえいへの道のりは長いと感じていた。これは精神的ストレスが影響で、時間の質が悪い事が理由となっている。いくら明日の朝からやればいいと思っても、山積みになった仕事が脳内から消え失せる訳でもない。どうしても脳裏に過ってしまい不安を感じてしまうのだ。人間は不安を感じている時こそ時間の経過を遅く感じる傾向がある。その反対に、楽しい事をやっている時は時間の流れが早く感じる。


 そういう意味では、人間はとても純粋な生き物なのだ。ストレスを感じると疲れ、趣味に時間を費やすと全く疲れない。無論、旺伝は前者のタイプである。


「それにしても……剣を作ってもらっている事を今の今まですっかり忘れていた」


 それだけ仕事漬けの毎日だったというのだ。それもそのはずだろう。今までは不規則極まりない恢飢ハンターの仕事をしていたのに、急に規則正しい仕事に変わったのだから、その分仕事も増えるに決まっている。


祓魔師エクソシストは売れっ子でもない限り、基本的に暇ですからね」


「そうなんだよ。芸能界みたいなもんだ。売れてる奴は相当大金持ちで、そうじゃない奴はとことん貧乏で生活費すら無いような状況だ。当たり前だが、俺は後者のタイプだぞ」


 旺伝は念を押していた。自分は貧乏の部類に入るのだと。


「貴方ほどのコネとツテがあれば成功しそうですが?」


「だから言っただろう。家族に頼るのは家訓では禁止なんだって」


 金と仕事は自分の手で掴めというのが玖雅家の考え方である。それ故に親族からお年玉はおろか小遣いすら貰うのも禁止とされている。しかし、旺伝は幼少の頃に優しいおばあちゃんから内緒で1万円を貰って大喜びした事があるが。


「そうなのですか」


 ラストラッシュは感心深いと言うように、深く頷いていた。


「親ライオンが子ライオンを崖から落とすみたいなもんさ」


「あまりにも厳しいですね」


「それでも、優しい一面もあるから憎めないのさ。これがな」


 旺伝はそうだと言うのだった。


「そうなのですか……私の両親とは大違いですね」


「ああ、例のか」


「私の両親は醜態を晒す事に定評がありましたから、それはもう体罰の嵐でしたよ。地下室に閉じ込められて三日三晩食料が与えられなかったり、家畜の檻に入れられてトイレにすら行かせてもらえなかったり……思い出すだけで心が痛みます」


 ラストラッシュは、あまりにも真面目な顔で生々しい話しをしている。さすがの旺伝もこれには困惑してしまい苦笑いしか浮かばない。


「だから焼き殺したのか?」


「生命の危機を感じましたからね。これ以上この人達と一緒に暮らすのは危険だと」


 まさにそれは本能的な行動だったのだろう。そうじゃないと肉親を殺す事なんてできやしない。恐怖と防衛本能が働いて、燃やしてしまったのかもしれない。


「それで家ごど燃やしたって訳か」


「ええ。それに彼らは宗教にハマっていましたから救いようがありませんでした」


「何の宗教だ?」


「聖天の実……ですよ」


 ラストラッシュはあまり言いたく無さそうな表情で、そう言っていた。


「それはまた、ナンセンスだな」


「ええ。ありえませんよ」


「ありえないな」


 まったくありえないのだ。


「私はあの宗教が嫌いです。あんな邪神が唯一神だと考えるのは間違いですから」


「同感だ。魔法界を滅茶苦茶にしやがって……あいつら!」


「恐怖大帝が神様なんて誰が思いますか。彼は災厄を撒き散らす害悪です」


 恐怖大帝とは魔法界で有名な暗黒の邪神だ。元々は善良な神様だったのだが、ある日突然闇へと堕ちてしまい、自分だけの世界を創り出した。その世界はフォイルムンクと言われており、聖天の実の信者たちを連れて人体実験をしているらしい。


「本当だぜ。あの戦争で祓魔師エクソシストの8割が奴等に殺された。もしも親父がいなければ魔法界は奴等に支配されていたかもしれない」


「そう言えば……貴方のお父さんは世界を救ったヒーローでしたね」


「親父の前でヒーローなんて言ってみろ。拳骨が飛んでくるぞ」


「お父様は自分の事を謙遜していらっしゃるのですか?」


「ああ。俺は何もしてないって一点張りだ。自分の手柄だってのに、絶対に認めようとしないぜ」


 旺伝はそうだと言うのだった。



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