001
青い髪をなびかせ、青いサングラスを装着した男は、厳格な会議室ではかなり浮いていた。彼は足を組んで椅子に座り、目の前にいる白髪にまみれた男達と会話をしているのであった。
「玖雅旺伝それが君の名前か?」
眼前に座っている男が声を掛けてきた。旺伝と呼ばれた者は口角を上げてハニカミながら質問に答えようとする。
「その通りだ。ミスター」
旺伝はまだ若く、張りのある肌をしていた。
「カルディア魔法学校を中退したそうだが?」
男は資料を片手に読み上げていた。
「高校二年の野外活動で気が付いたのさ。今まで学校という檻の中に囚われていた自分の存在を。だから、大自然に解き放ちたくなったのさ。俺というライオンをね」
「ふうむ。今はフリーのエクソシストをしていると」
「学生なんてやってないで、稼げる時に稼いだ方が老後のためにもなると思ってな」
「それで、君の職業をカテゴリーで言うと……?」
「ま、手堅く言えば自営業。簡単に言えば無職かな。俺はまだ一人で仕事をした事がないんだよ。これまたビックリだろう?」
旺伝はジェスチャーを交えながら会話をしていた。両手を上手く動かして、相手に意志を伝えようとする姿勢が見受けられた。
「そうだな。実質、これが君の初仕事になるのか」
「俺みたいなペーペーに仕事をくれるのはありがたいが……ちゃんと報酬はでるんだろうな。タダ働きは御免だぜ」
「安心しろ。今時給料が出ない仕事なぞありはせん」
そう言うと、白髪の男はテーブルの上に一枚の紙を置いた。旺伝はサングラスを下げて、裸眼で紙に書かれた内容を読み取る。
「なになに……家に侵入した恢飢の駆除だって」
「ああ。羽根を毟り取られ、天から堕ちた恢飢が私の自宅に侵入したのでな。殺虫してもらいたい」
「ヒューヒュー、簡単に言ってくれるぜ。恢飢には通常兵器の類が通用しないのはおたくさんだってご存じの筈だろ?」
「だからこそ君に頼むのだ。やってくれるな」
「こいつは驚いた。半ば強制的じゃないか」
旺伝は両手を上げながら首を横に振っていた。
「君にとっても良い経験値になると思うのだが」
「そうだな。やはり報酬の値を聞いてから決めるとしよう」
「言い値で構わんよ」
「マジかよ」
そう聞いて微笑む旺伝だった。
「ただし、あまりに非日常的で法外な金額は出せんぞ」
「なんだよ。結局制限があるじゃねえか」
しかし、特に落胆した素振りは見せなかった。
「では、やってくれるな?」
「大企業の社長さんの頼みとあらば聞き入れますよ」
こうして、二人は握手を交わした。契約成立だった。
■
「待ってくれよ、こいつは城か?」
旺伝は眼前に聳える豪邸に驚きを隠せないでいた。遥か彼方まで続いているのではないかと思う程の土地と、豪華絢爛に煌びやかな外装をしている建物はまさに大企業の代表取締役が住んでいるに相応しいものだった。
しかし、ここには恢飢という悍ましい生物が蔓延っている土地に変色してしまったのだ。エクソシストはそんな哀れな状況を解放するために、日夜何処かで戦っている。
「失礼しちゃいますよーっと」
扉を開けると、いきなりナイフが飛び出してきて、旺伝の真横に突き刺さった。幸いにも当たらなかったのだが、突然の事に笑いしか出てこなかった。
「待て待て。なんでナイフが襲ってきた」
「私ですよ」
奥から声が聞こえたので奥を覗いてみると、そこには血で染まったナイフをクルクルと回しながら近づいてくる男の姿があった。男は金髪のモヒカンに眼鏡を掛けて、固いスーツを着ているという中々に斬新なファッションをしていた。
「なんだお前。真面目なのかヤンチャなのか区別できねえな」
サングラスの奥から目を細める旺伝だった。
「そうですね……ま、私のファッション感覚は置いておきましょう。それよりも、貴方はこの屋敷に何の用があるのですか?」
「そいつはこっちの台詞だな。俺はこの家の持ち主に直接依頼されたんだ。抜け駆けは許さねえぞ」
「抜け駆け?」
男が首を傾げた。
「恢飢を退治して報酬を独り占めしようって魂胆だろうが、見え透いているぜ」
ここで、壁に突き刺さったナイフを引っこ抜いて、持ち主に返した。ところが、男は何気なく体を横に倒してナイフを躱し、もとの位置に体を戻した。
「報酬……私は金に興味はありませんよ」
「それじゃあ、なんだ?」
「教えません」
「この野郎。どうやら俺を舐めているようだな」
ついに堪忍袋の緒が切れた旺伝は武器を構えたのだった。