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第八話 ギルドとヴァンパイアモンキーⅡ

 デミの目の前に現れたのはサルのヴァンパイアだった。ヴァンパイアから見ればデミは仲間に見える、サルはデミをじっと見ていた。

「デミ、そいつを何とかしろ!」

ウノの大声が響き渡る、デミはハッとしすぐに捕まえようとするがサルはそれをひょいと避けた。デミは勢い余って転んでしまう。サルはそのまま山の方に向かっていってしまった。

「デミ、大丈夫か?」

ウノが手を差し伸べる、デミはその手を取るとゆっくりと立ち上がった。

「ねえ、あれって」

「見て分からねえか、ヴァンパイアだよ」

ウノはそう言い捨てるとサルを追っかけ始めた。デミも向かう。

「人以外のヴァンパイアなんて聞いたことはありますけど見るのは初めてですよ」

「最近じゃ珍しいな、俺も見るのは数年ぶりだぜ」

 ヴァンパイア化する動物が徐々に拡大、大型化していくのはまだわかる。しかし現在ヴァンパイアはほぼ人間がなる現象であり今回のサルや馬や犬などはまれ、発見当初に多かった鼠や虫などの小動物はここ数年目撃すらされていない。キショーではヴァンパイアは知能の高い動物を優先して噛み付くのではないかと言われている。

「この先でシキが先回りしているはずだ、挟み撃ちにするぞ」

「はい!」

サルはデミたちの遥か向こうを走っている、ヴァンパイアにしてはすばしっこい。ヴァンパイア化すると人間の場合力は上がるが持久力は下がる。しかしサルの場合は持久力も十分あるようだ。

先の方で大きな布が広がるのが見えた。シキが屋根の上に乗っていたようだ。

「どうだ!捕まえたか!」

ウノが屋根の上に乗っているシキに向かって叫ぶ、うまくいけば捕まえられるはずだ。

「ダメだ、すり抜けられた!」

どうやらサルは綺麗にかわしてしまったようだ。

「どこいった!?」

ウノがサルを探す、あたりは既に暗くなって知っている。

「あそこ!塔のところに向かっている!」

デミがいち早く見つけた、暗いところが見えるところがここで役に立った。シキが屋根から飛び降りるとニヤリとした。

「しめたぞ、坑道の中に追い込もう!あそこなら狭いし捕まえやすいだろう」

 モニのシンボル的存在であるこの塔は採掘の時の拠点だ。モニの山は高さや深さによって取れる鉱物が違う、そのため効率よく採掘するため山のすぐ横に塔を立ててそこからいくつかの橋をかけそこから坑道を掘っている。坑道は無論村の中よりも狭い、坑道の中に追い込めばサルの行動を制限できるだろう。

「3手に別れて坑道に追い込もう、デミはそのまま正面、ウノは右手、俺は左から行く」

シキが作戦を伝えると2人は頷いた。

「よっしゃあ、坑道に追い込んだら袋の鼠だぜ!」

「サルだけどね」

3人はそれぞれの方向にわかれた。


 デミはそのままサルを追いかけ始めた、デミには既に疲れがたまっている。シキがデミを正面にさせたのはなるべく遠回りさせたくなかったのだろう、それに夜道ではデミの方が見える。逆に遠回りしようとすると土地勘のあるシキとウノに軍配が上がる。あの短時間でシキは適材適所を考えていたのである。

「あ、あそこ!」

デミは塔の根元についた、塔の横には坑道の入口がある。サルは右に左に見渡すと右に向かって走り出した。

「おっと、こっちには行かせねえぜ」

ちょうどウノがやってきたところだった、デミ一人だったら逃がしていたかもしれない。

「さあ、おとなしくするんだ」

反対側にはシキもやってきている、サルはどっちに行こうか迷っているようだ。3人はじわじわと距離を詰めていく、サルは振り返ると坑道の中にてってと走っていった。

「よし、あとはゆっくりと退治するだけだ」

「追いかけるぞ!」


 さすがにデミには体力の限界が来ていた、ジョウォルといい今回といい走りっきりである。

「疲れているけど大丈夫か?」

ウノがデミを気遣う。シキはランプをつけていた、ウノはそれを見ると自分のランプにも明かりをつけた。

 坑道内は昼でも真っ暗である、通常だったらヴァンパイアスポットにもなり得る場所ではあるがここではそうなっていない。坑道の入口はすべてモニの村の中にある、そのモニの村には首都並みの壁が周囲に張り巡らされており入口以外はアリ一匹通さない程でさらにねずみ返しまでついている徹底ぶりである。鉱山資源の豊かなモニであるからこそ出来た壁だ、坑道内にヴァンパイアが入れないのであれば坑道がヴァンパイアスポットにならないという単純ながら確実な理論であった。

 それが今回何故突破されてしまったのか、今回のサルのヴァンパイアは壁をよじ登って入ってきたらしい。最もウノもシキもその瞬間を見ておらず住民からの情報だ。サルくらいでは登ってこれない壁のはずなのだが恐らく壁の近くに木やツタがあったのだろう、明日は壁の周囲を見回ってどこから入られたのか、どうやってはいられたのかを考える必要がある。


「気をつけろ、どこから飛び出してくるかわからないぞ」

「大丈夫、まだサルは見えていないから」

「お前のその目がありがたいよ・・・」

坑道内はデミが先行していた、暗いところも見えるので妥当である。この目は暗いところでも見えるが逆に明るいとこらは眩しくて視力が下がる。後ろではシキとウノが2つの剣を構えながら進んでいた。

 ギルドメンバーの使う武器は保安官のものとは少し違う、見た目や構造は同じなのだが入手ルートが異なるのだ。保安官の使うものはその多くがアチの町でついで首都であるギダムから作られたものが使われるがギルドメンバーの使うものはそのほとんどが本拠地であるキール製、そして少しはモニでも作られる。どこの町の職人もほとんどがアチの出身やアチで修行を積んだ職人である。基本的に保安部とギルドは仲が悪いがアチの町とモニの村は人材と資源の関係柄そのようないがみ合いは少ない方である、結局人間は理論や思想よりも金なのである。


ウキャーア!


行動の奥からサルの鳴き声が聞こえてきた、この奥にいる。

「デミ、先に行ってくれ」

ランプの明かりを消すとシキがデミに伝えた、この先の坑道は緩やかに右にカーブしているので先が見えにくい。デミは右側の壁に背中を付きながら先を少しずつ確認しながら進む、しばらく進むと申の姿が見えた。こちらにはまだ気づいていないようだ。

「いたよ、この先にいる」

デミは音を立てないように囁きながら後ろで待機している2人に声をかける。

「どうする?何か作戦があるのか?」

ウノがシキに頼った、作戦立案に関してシキはギルド内でも指折りである。

「デミ、お前はヴァンパイアに味方だと思われるのだったな」

「そうだけど・・・」

「デミは敵意の無いようにあいつに近づいてからこいつでとどめを指してくれ」

そういうとシキは2本の剣をデミに差し出した。

「それは大丈夫だよ、私がヴァンパイアに噛み付けばそれだけで倒せるから」

「本当なのか?」

ウノは驚いていた。

「うん、だから行ってくる」

デミは両手を上げるとゆっくりとサルに近づいていった。残った2人は壁に設置してある松明のそばにいた、万が一失敗した時にすぐに明かりをつけられるようにするためである。

 デミが近づいていってもサルはじっとこちらを見つめたまま動かない、サル並みの頭脳に加え知性が減ると言われているヴァンパイアである。先ほどあれだけ追い掛け回しておいてもデミの顔を忘れているようだった。

一定の距離まで言って両手で一気に掴みかかる。サルはとっさに奥に逃げてしまった。

「あーもう、すばしっこい!」

シキとウノが明かりを付ける。

「坑道の最奥地だ、どうせもう逃げられないし大丈夫だ」

ウノが慰める。

「できればここで決めて欲しかったのだが・・・」

シキは正反対にデミを遠まわしに攻めていた。

 3人は行き止まりになった坑道のなかでサルを倒そうと掴みにかかるがサルは一向に捕まらない。猿回しではなくサルに回されている。

「掴んだぞ!」

その中ついにウノがサルの右足を掴む、サルはウノに向かって噛み付いてきた。ウノは手を離してしまう。

「サルなんかでヴァンパイアになってたまるか!」

ウノはサルを掴んでいた手を振りながら吐き捨てていた。

「しかし考えてみるとこのサルは逃げるばかりで人を襲いにかからないな・・・」

考えてみればそうだ、このサルのヴァンパイアが噛み付いてきたのは先ほどが初めてであった。ヴァンパイアなら人や家畜などに噛み付きにいってもいいような気がするが・・・

「先ほどの行動も仲間を増やすというよりも自己防衛で行ったような気がする」

シキが捕まえるのを中断して一人考え込む。そのあいだもウノはサルに悪戦苦闘していた。

デミはというともう息が切れていて壁に手をついている。そろそろ限界のようだ。

「いいからシキも手伝えよ!こいつは仲間を増やす以外に目的があったんだろ!」

まさか、仲間を増やすことにしか考えないヴァンパイアの行動とは思えない。

「よし掴んだ!」

ウノが再びサルの足を捕まえた。サルも流石に疲れてきているようだ。サルは再びウノに噛み付こうとする。

「同じ手はくらうか!」

ウノは足を使ってサルの頭を蹴っ飛ばした、サルはひるむとその隙にウノは右手で足を掴んだまま頭を足で地面に押し付けた。サルはもう動けない。

「デミ!さっさとこいつに噛みつけ!」

「はぁ、はぁ・・・はぁい・・・」

息の切れているデミがゆらゆらとサルに近づくと捕まりつつもまだ暴れるサルの腕を噛んだ。暴れているのでしっぽでビンタされたが全く痛くない。

 サルはもがき始めるとカラダが膨張していく、そして破裂した。

「破裂するのか、何故・・・」

ウノは不思議そうにその光景を見ていた。

「私が知りたいですよ・・・」

デミはやっと終わったと言わんばかりにその場に経たりこんだ。

シキはヴァンパイアの破裂よりもサルが何故積極的に攻撃に出なかったのかが未だに気になっていた。




 翌日、モニの村では既に日が昇っている。窓を締め切った住居に待機させていた住民は外に出てきて今日も坑道や農作業などそれぞれの仕事に取り掛かっている。ヴァンパイアと戦うヴァンパイアはここでもヒーローとして噂になっていた。しかし噂のデミはギルドの小屋の中で眠っている。村の住民からいろいろ食べ物をもらい食べているうちに明るくなり眠くなったのだ。一方シキとウノは仮眠を取ったあとに行動に出ていた、今回のヴァンパイアがどこから入ってきたのか調べるためである。

「確か北側の壁をよじ登ってきたのだよな」

「ああ、そうらしい」

村の北側の入口から外に出て壁周りを見て回っていた。

「デミのやつ使えるじゃねえか、全くどこが人類の驚異だか。保安官のやつらの考えていることがわからねえ」

「力強い味方というものは敵に回ったときにこれ以上ない厄介な的になるものだ」

「敵になるのか?完全に味方に見えるが・・・」

「おそらく保安官たちはデミの意識が無くなったときを危惧しているのだろう、そうなると運動能力、知能が通常以上でしかも太陽が効かない最悪のヴァンパイアになるからな」

「キールにはどう報告するつもりだ?」

「まあ現状ギルドにとって有益であることは間違いない、体力が少ないのはともかくヴァンパイアに味方だと思わせる部分は強い」

「それは俺も同じだな」

ウノは同意していた。

「キールには今日にでも鳩を飛ばしておくよ、保安官じゃないし誰かがついて行かなくても大丈夫だろ」

「見た目はヴァンパイアだが・・・まあベルーも不在だしこれ以上誰かいなくなるのは避けたいか・・・」

モニのギルドメンバーはデミをヴァンパイアに対抗する重要な存在と決めたようだ。その知らせはギルド本拠地であるキールに知らされるだろう、それはギルド側にとってデミが保護対象になることを意味する。保安官と逆の立場を取ったギルドはまた仲の悪い火種をひとつ作ったことになる。


「おい、あれを見ろよ」

ウノが何かを見つけた、その視線の先には大きめの木箱がひとつだけ壁際に不自然に置いてあった。

「木箱?どうしてこんなところに・・・」

シキは木箱に駆け寄ると外から叩いてみた。軽い音が鳴る、中に何も入っていないようだ。シキは鉄の剣を木箱の隙間に挟むとてこの原理であけ始めた。

「おいおい開けて大丈夫かよ、爆発しても知らねえぞ」

その心配をよそに中身は何もなかった、シキは首をひねる。

「おそらく昨日のサルはこの木箱を踏み台にして壁を乗り越えたようだな、しかし空っぽとは・・・」

ここは普段は人気もない、このようなところに空っぽの木箱があるのは明らかに不自然だった。まるでサルが村に侵入するために置いてあるようなものだ。

「それよりも変な匂いがしないか、ヴァンパイアが焼けたような・・・」

シキはその言葉を聞いて振り返る、いわれるまで気づかなかったが確かにヴァンパイアの焼けた匂いがする。シキは集中しすぎる正確で一度気にしてしまうと周りのことが見えなくなってしまう。その分その気になったことを徹底的に調べるのだが・・・

「これは・・・」

木箱のあった場所から少しだけ北に行った茂みの中に大量のヴァンパイアの焼けた跡があった、炭がわずかに残っているだけだがおそらく20位はいただろう。

「おい、ここは茂みの中とはいえヴァンパイアスポットになるには小さすぎだぞ、なんでこんなにヴァンパイアがこんなにたくさんいたんだよ・・・」

ウノの顔は引きつっていた。

「まさか・・・」

シキはひとつの仮定を立てていた。何者かがここに木箱を設置しサルのヴァンパイアを放つ、サルのヴァンパイアはモニの村に侵入すると夜は閉じてある村の入口を開ける、入口を開けたら外で待機している大量のヴァンパイアが村に押し寄せてきて人々を襲う。昨日のサルが積極的に攻撃に出ずに逃げ回っていたという行動にもこの推論なら納得がいく。

昨日のサルは入ってくると同時に住人に見つかりちょうど近くを巡回中だったウノに伝えられた。それですぐにサルを追うことができたのだが・・・

「ウノ、昨日のサルなのだが村の入口を目指していなかったか?」

「サル?そういえば昨晩見つけてから追い掛け回していたけど何度も北側の入口を通ったな・・・」

ヴァンパイアの集団行動、それは今から数ヶ月前から顕著になってきた。その前でも主にヴァンパイアスポットの周辺ではヴァンパイアが集団で村に押し寄せることがまれにあったが最近では明らかにヴァンパイアが集団で村を襲うことは増加している。

とはいっても先ほどの推論ではあまりにも知能的な行動である、とてもヴァンパイアがとる行動とは思えない。デミの事と合わせてこの推論もキールに伝えておくべきだろうか。

もやもやしているところもあったが2人は木箱を回収すると村に戻っていった。




「デミ、ではキールに向かうのだな」

夕刻の頃、旅立つデミにギルドの2人に合わせ村人も数人集まっている。

「はい、自分のことも気になりますけど・・・」

「あんたのことを知るならキショーが一番なのだがな」

キショーはモニから東に、キールはモニから北の方角である。

「ハルのことが気になって・・・」

「恋人なのかい?あいつもデミのことを気にしていたぞ」

シキがからかう、シキが人をからかうのは珍しい。

「ち・が・い・ま・す!」

はっきり否定しておいた。周りの人たちはニヤニヤしている。

「キールはここから北へ山を超える必要がある。道はあるがくねり道でわかりにくいから迷わないように注意してくれ」

「既に私の方からキールに連絡を入れている、割とすんなり入れるだろう」

シキとウノが出迎えの言葉をかける。

「ありがとうございます。では行ってきます」

デミは手を振るとキールに向かって歩き出した。見送る人たちがしばらく手を振っていると村の扉が閉じられた、デミは前を向く。もうそろそろ夜だ、普通なら出歩く時間ではないがデミはむしろこの時間帯の方がいい。明日の朝にキールの扉が開く時間には着くそうだ。デミはハルを追ってキールに向かっていった。

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